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VARICAM 35で撮影された作品 “Momentum” を再グレーディングでHDR作品へ

- HDRから見える、新たなルック -

#1 石坂 拓郎/撮影監督

VARICAM 35デモ作品 “Momentum”

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“Momentum”という作品は、そもそもVARICAM 35というカメラの基本コンセプトである「2つのフィルムストックを有するという特性」、つまりISO800とISO5000の2つのベース感度があって、それが実際の作品の中でどう活かされるのか?というところをテストしたデモ作品です。メインの居酒屋などのナイトシーンはISO5000を活かし、回想のデイシーンではISO800を使用。その2つを作品内で使用したときに質感とルックがどう成立するか?というところを狙っています。VARICAM 35については、多くの人が感度の部分(特にISO5000)に注目しています。特にナイトシーンのトレンドとして、EOS 5D MarkⅡ以降、絞り開放でのイメージといった流行もありましたが、ISO5000であればそれだけではなく、低感度の現場でもちゃんと絞って撮影でき、ノイズもあってもカラーグレーディングで画として成立する質感も保たれる、というところを見せたかったのです。

*VARICAM 35 デモ映像 “Momentum”

*“Momentum” メイキング(日本語字幕入り)

HDR化の狙い

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“Momentum”のHDR版作成が、僕にとってHDRへの変換作業の初経験でした。最初V-LogからHDR化したクリップだけをHDRモニターで見ても、その効果はわかりづらかったのですが、以前のSDRの映像と比べてみると「なるほどコレは違う!」と思いましたね。ただ問題だったのは、すでにSDRである狙いを持って完成させた作品を、どうやってそのイメージを壊さずにHDRに持っていくか?というところでした。カラーリストの方もSDRの時とは違ったのでその個性でも違うし。撮影セットの照明の作り方なども含めて、元々HDR用に撮った素材ではないことで難しい部分はありました。ただVARICAM 35で撮った素材は非常にポテンシャルがあったのと、色域もDCIで撮っていたというのもHDR化には有利に働いたと思います。最初に見た時は妙にハイライトが目立っていったのですが、それで成立していない訳ではない。暗部も残っていたのでかなり締めることが出来ました。現場のライティングが元々ファンタジーをどう表現するかという設定もあって、カフェっぽい照明にしているのですが、その感じも手伝ってか、HDRにしたら日本の居酒屋がパリの居酒屋になったような(笑)、そんな印象になりましたね。

HDRから見えたもの

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HDRの評価映像として考えると、あまり濁らせてはいけないのかな?というのもありましたが、全体のトーンを青みに振ってる部分では、(SDRでは)オレンジが出にくかったところが出やすくなったとか、HDRにすると全体的に色のセパレーションが良く出たのではないかなと思います。またHDR化して、いきなりある場所の青のトーンが異常に浮き出して、SDRの印象よりかなり目立って、もっと落として下さいと指示することがありました。要は画面の中の、様々な色が的確に表現出来ることで、HDRの効果は色の段階のニュアンスを大事にする作品などに利いてくるでしょうね。 “Momentum”については、まだカメラも4:2:2でしたが、HDR化にあたっては4K V-Logの元素材から立ち上げる事ができたので思った以上に上手くいったと思います。作品としてHDRにした際に、やはりSDRとの違いを見せる、という狙いもありましたので、HDRだとさらに黒の諧調の中で幅が出て、色調整も粘れることもあって、SDR以上に黒を締める方向に指示しています。

HDRのこれから

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SDR on SDR: SDRの元映像を普通のSDRモニターで見たときの画像

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2084 on SDR: HDR変換した映像を普通のSDRモニターで見たときの画像

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SDR on 2084: SDRの元映像をHDR対応モニターで見たときの画像

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2084 on 2084: HDR映像をHDR対応モニターで見たときの画像

今後、長編作品をHDRにする場合、現状では元素材がSDR用に撮られたものがほとんどで、それを変換するという難しさはあると思います。最近は2K・SDRの作品を4K化・HDR化しているという話も聞きますが、そもそもの4K・HDRスペックで撮っていないと解像度も色域も足りない素材に対して「HDR変換するだけ」というほど簡単にはいかないと思いました。単にスペックだけの変換というのは現実問題として成り立たないと思います。フィルムだったら再スキャンすることで意味が出るのかもしれませんが、それも元のルックを狙って撮影されたものです。またすでに完成している作品に対して、再度、元素材からの作業で、満足の行くクオリティーに持ってくるのには相当な作業が必要です。普通の作品でもカラーグレーディングは、非常に細かい部分にまで気を使うハードな作業で、僕も毎回難しさを感じていますから、HDRとなると尚更でしょう。厳密にいえば最初からHDR作品として撮る、そして現場にもHDR対応のモニターがないと、ちゃんとしたHDR制作は難しいでしょうね。
あと、いまの世に出ているHDR映像というのは、まだ「ダイナミックレンジを利かせた、高解像度な」映像を見せる、というポイントに引っ張られている段階だと思います。これが今後もっと一般的になって、普通の作品作りの中でHDRがどう使われていくのか?という部分では興味はつきないですね。


石坂 拓郎 J.S.C.
1974年 神奈川県出身。高校時代より渡米、映画照明などを学んだ後、照明助手としてキャリアスタート。その後、撮影助手として「ロスト・イン・トランスレーション」(02、ソフィア・コッポラ監督)、「世界の中心で、愛をさけぶ」(03、行定勲監督)等に参加。06年 LAでFrameworks Films Inc.を設立し、撮影監督として国内外の作品に参加。近年では「るろうに剣心」シリーズ 3部作(12、14)をはじめ、「悪貨」(14 WOWOW)、「秘密-The Top Seacrert-」(16)など。
2016年夏、巨匠ジョン・ウー監督が日本を舞台に、高倉健主演の往年の名作『君よ憤怒の河を渉れ』の再映画化作品「追補-MANHUNT」(香港・中国合作映画 2017年公開予定 主演:チャン・ハンユー、福山雅治)に撮影監督として参加。