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ドキュメンタリー × ショウ × 映画

- 水谷豊監督/会田正裕撮影監督 インタビュー -

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#3 水谷豊(映画監督)

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俳優の水谷豊氏が主演とともに初監督を務めた映画「TAP -THE LAST SHOW-」が6月17日から全国公開になる。天才タップダンサーだった渡真二郎(水谷)が、大怪我で現役を引退、自堕落な生活ながらも振付師として後進の指導にあたり、次世代のスターを育てるまでの「ドキュメント」と「ショウ」と「映画」をつないだ意欲作だ。

この作品は水谷氏本人が、40年以上も前から心に温めて来たアイディアを具現化したもの。これまで何度となく映画化を試みるも果たせなかった夢として、初監督&主演という形で実現した。後半の24分にもおよぶ圧巻のタップダンスショーシーンは、映画でありながらも、ライブショウのドキュメンタリーでもあり、観る者を生の感動へ躍動させる新たな感覚に目覚める。ストーリーとドキュメンタリーを一体化するため、カメラには機動性とシネマティックな演出が可能なキヤノンEOS C300 Mark IIを全編で使用した。
作品が完成したばかりの水谷豊監督と、撮影監督の会田正裕氏にお話を伺った。
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水谷豊(映画監督)
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会田正裕(撮影監督)

水谷豊監督 インタビュー

映画完成した、いまの率直な感想は?


僕にとってこの作品は40年もの間、想い続けてきたものです。途中諦めかけていたので、叶わぬ夢だと思っていたんですが、完成披露試写があった時に、本当に夢が手に入ったんだということを実感しました。ですがその時はまだ、作品への感想は何も浮かばなくて、ただ「夢が手に入った」っていうことだけで、それがどうなのか?というところまではいっていなかったんです。その後プレミアイベントをやった時に、今まで俳優としてしかああいう場所に立っていないので、監督としては不思議な感じでしたね。監督らしくいなければなあと思ったり。でもどうしたら監督らしくなるんだろうって(笑)そんな感じでした。

初監督作品ということで、監督をやる前に想像していたことと、やってみて実際に感じた違いは?

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いままで色々な監督と出会いましたが、みんなスタイルが違うんですね。ですから、スタイルっていうのは決まってないので(僕自身)監督としてどうあったらいいのかというのは“決まってない”ということを自分に思いました。現場に行って、自分のイメージをみんなにどう伝えるのか、それしか実は思っていなかったんですよ。でも思っていたこと以上に凄かったのは、すべてのカットが自分のイメージよりも勝っていた。これは想像もしていなかったことです。

影響を受けた監督や作品と演出の参考にしていることは?

多くの監督、脚本から良いものを与えられてきました。だから今の自分があるんです。でもそれは、演出するために学んできたというものではないんですね。学ばずして影響されてるものがあると思います。それに、監督するっていうのは、追い詰められた状態になります。追い詰められると、その人そのものが出てくるわけですから、(無理に)スタイルを作らないで、出てきたものをやっていこうと。影響された作品に関して、最初に衝撃を受けたのは、「俺たちに明日はない」ですね。あの衝撃はすごかった。「ゴッドファーザー」や「エデンの東」もそうです。色んなものを見て衝撃や感動で心を動かされるわけですけど、それって全部見る側として残ってるんですよね。だから自分が見て感動したものは同じように、演出に出てくるはずだと。
そういうことしか考えてなかった。意識して真似しようとしても、出来るものじゃない、っていうのは分かってましたからね。

作品作りで最も重要視したのは?

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この作品では、生活するのもままならない若者たちが、タップダンサーとしてスポットライトを浴びたいという想いでショーに向かうわけですが、そこに辿り着くまでに人間ドラマがある。それを描きたかったのと、ショーを見ているお客さんたちを別世界に連れて行きたかった。それまで経験したことのない“感動の世界”っていうのは、実は僕が昔見たブロードウェイでの実体験なんです。この作品では、映像でそこへどう辿り着けるかっていうことが一番大きなことでしたね。あとは脚本が重要です。よく我々の口癖で「良い脚本(ホン)でやりたい」って言うんでが、つまりそこに良い魂があるってことなんです。そして次にそれを表現できる人たちが集まるかどうか。俳優では分からなかったことが沢山ありました。

ダンサーをメインで起用したのは、ドキュメンタリー的な意味合いを意識して決めたのか?

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始める前に決めかねていたのはタップのできる役者でやるか、芝居経験のない本物のダンサーでやるか。どっちがこの映画にとって良いのか?っていうのをずっと決めかねながら、オーディションを続けていました。でもある時に、今回の映画に出演したメンバーたちがオーディションを受けました。彼らを見た時に「これは本物で行かなきゃダメだ」って思いましたね。それまでは(オーディションを受けた俳優たちが)目の前でタップを踏み、様になってたりすると、上手さにどの程度の差があるのかっていうのは分かるようで分からないんです。でも彼らが出てきた時、明らかに違うものを持ってるっていうのが分かったんですね。そこで「本物のダンサーで行こう」と決めました。彼らはほとんど芝居経験はないけども、逆にそれが生っぽさとして画面に出てくるのではないかと思いましたね。

劇中での音楽のこだわりは?

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今回は極力、映画音楽としては作らないようにしたんです。すべて、生活の中で使ってる音楽にしよう、と。オープンカーを運転している時は、カーラジオから聞こえてくる音楽。アメリカンカフェに行ったら、その店で流れている音楽。ショーになると、ショーのための音楽。だから、生活に関係なく映画のために作った曲は2曲くらい。それは、彼らの生活を音楽に引っ張られないで見せたかったんです。それに、映画として音楽がほしい感動的なシーンでも、「僕のイメージは感動的じゃないんだな〜」って、音楽監督の佐藤準ちゃんを驚かせた(笑)。でも実際それは、僕の中では良い世界。ただ、作るのは作曲家ですけどね。

水谷豊監督×会田正裕撮影監督 対談

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国民的テレビドラマ「相棒」シリーズを始め、「少年H」、「王妃の館」といった映画等、数々の水谷豊主演作をカメラマンとして撮ってきた会田正裕氏。俳優と撮影監督から、監督と撮影監督という立場に変えて挑んだ本作では、どんな違いが見えたのだろうか。長年、水谷氏とタッグを組んできた会田氏だからこそ分かる監督・水谷豊の姿とは。「撮影期間よりも雑談の方が長かった」と笑い合う2人から、制作秘話を語っていただいた。

実は何年もの間、監督の演出に触れてきていた

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水谷氏がメガホンを執るのは初となる今作。しかし、会田氏にとってそれは違和感のない現場だったという。

「豊さんのことを今まで何千カットって撮っています。それで気づいたのが、主演って自分を演出してるんですよね」(会田)。

「相棒」でお馴染みの杉下右京のキャラクターを始め、主演作の主人公は水谷氏自身が生み出してきた。その様子をレンズ越しに見てきた会田氏は、水谷氏がすでに俳優として自身を演出していたことに気づいた。何十年もその“演出”に触れてきたからこそ、監督として俳優に演出している本作の現場でも自然とカメラワークが分かったという。まさに、一番短かに監督としての水谷氏に触れてきていたということだ。

全役すべてを演じて見せる

ロケハン時にスタッフに喜ばれたのが、水谷氏がすべての役をその場で演じてみせたということだ。動きを見せるのだから、スタッフは想像がし易い。そのスタイルは本番でも健在で、俳優が違う動きをしていると、その俳優の前に立ち、カメラに実際映る形で実演してみせる。まさにチャーリー・チャップリンが全役を演じて俳優にみせたエピソードを彷彿させる。

「キャラクターが3人出てる時は、3人分の演技をする。そこでショーが始まってるんですよ。それに、豊さんは伝える手法が多彩なんですよね。面白いし(笑)。楽しい1日が始まるぞっていうスタンスでいられました」(会田)。

“渡”のキャラクターは本番でしか見れない

今回、監督兼主演という立場のため、当然ながらスクリーンへの出番が多い水谷氏。そんな中、俳優としての顔を見せるのは、本番のみだったという。テストでは、俳優やスタッフへの指示出しがほとんどで、主演である“渡真二郎”としてのキャラクターは成りを潜める。寝ているシーンでも、俳優の芝居をチェックするために目を開けているくらい、監督業に徹していたそうで、当の渡自身の動きはテストの段階では全く予想がつかなかった。まさにドキュメンタリーのような、予想不可能な展開と興奮があった。特に印象的なのは、ニートな性格のJUNとタップで会話するシーン。JUNの指導を始めて一人二人と増え最後は「全員だ!」の渡の一声で、参加者全員が踊る熱くなるシーンでは、スタッフも巻き込んでの全員一体となった熱い撮影現場となった。

「その時の現場はものすごい熱量だったんですよ。全員だ!って言われた瞬間、思わずスタッフも含めて全員(踊るの)かなって思った(笑)実際には踊ってないですけど、同じ気持ちというか。自分たちも出演してるくらいの気持ちになってました、カットが掛かった瞬間、みな拍手喝采でしたね」(会田)。

「実はこの「全員だ!」というのを本作のテーマにしてたんですよ。全員だ!って叫ぶところは、ダンサーたちをみんな連れてくぞ、その気にさせてくぞっていうことだったんです。でもスタッフも含んじゃいましたね(笑)」(水谷)。

ドキュメンタリーとドラマを同時に撮る

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「TAP」の撮影では、メインカメラにキヤノン EOS C300 Mark IIを2台使用している。
この作品の特徴でもある、「ドキュメンタリー」と「ショウ」と「映画」を融合させる手だてとして、機動性が高く、しかも映画的演出にも耐え得る映像が撮れるという意味で、このカメラを選択した。

「監督とは雑談の中で、ドキュメンタリータッチで撮りたいといった話をよくしましたね。その中でこれは大きなカメラじゃ撮れないなと思いました。別に大きなカメラや高額な機材だからいい映像が撮れるというわけじゃないですからね。いかに作品に機材のサイズがあっているかが重要です。今回の作品に(EOS C300 Mark II)は、大きくも出来るし小さくもできて、この作品にはとてもマッチしていたかなと思います。」(会田)

信頼関係の先にあるもの

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2人にとって印象的なショットは、ラストの“感動のタップダンスショウ”で見せる渡の表情だったという。ダンスを見ているお客さんのリアクションを映すシーンなのだが、広い画で撮るため、奥にいる渡も立っていないといけないショットだった。打ち合わせでは、渡の表情を撮るというカットは無かった。だが、何かを感じ取った会田氏はダンサー越しに渡を狙った。そこから見えた表情に驚きを感じたという。

「これは演技じゃないかもな?って思ったんです。監督の顔でもないし、何か特別なものを感じてるんじゃないかなって?」(会田)。

水谷氏は、自分が撮られてるのでは?と途中で気づいたそうだが、上がってきた画を見て、それが生っぽい、ライブ感のあるものとして映し出されており、水谷氏にとっても特別なショットになったという。

「TAP -THE LAST SHOW-」

Official Website: http://www.tap-movie.jp/
6月17日 全国ロードショー
写真提供:©2017 TAP

PHOTOGRAPHER: 香田 ノブヒロ