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インタビュー: Blackmagic Design CEO グラント・ペティ氏

- 「私たちはお客様がダンスをするためのステージのようなものです。私たちは彼らをサポートする役割を担うためにいるのです」 -

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ーDaVinci Resolveの登場が、映像制作の上でカラーグレーディングという意識を大きく変えたことは間違えない事実ですが、グラントさんご自身はこのようなことになることを想像していましたか?

グラント:Resolveがカラーグレーディングという意識を本当に変えていたらすばらしいと思います。私は、カラーグレーディングは映画やテレビ番組の「エモーション(感情)」トラックだと捉えていて、ビデオやオーディオトラックと同じように重要だと思います。グレーディングは、視聴者の潜在意識へ(感情などを)伝え、作品の雰囲気を表現する重要な方法です。

ー今年のNABでの発表で、FairlightのDaVinci Resolveへのジョイントは大きな話題になりました。編集からカラーグレーディング、サウンド編集までを一貫してできるソフトに進化しましたが、こうした設計構想に至るまでの経緯を教えてください。

グラント:映画やテレビのオーディオの問題をまだ誰も解決していないと感じたからです。私が働いていたポストプロダクションでさえも、オーディオのポストプロダクションの部署は別の建物にあって、別物として扱われていていました。それをずっとおかしいと感じていて、変えられないかと考えていたんです。弊社は現在、より大きくなっていろいろなことが実現しやすい会社になりました。DaVinci Resolveは非常に多くのユーザーがいます。ついに、この大きな問題を解決できる時がきたと私は感じたのです。ユーザーの皆さんが私たちのしたことを理解してくれて、パワフルなオーディオ機能をDaVinci Resolveに搭載した価値を認めてくれたことに、安心しました。これらのツールセットは全てクリック一つで相互にアクセスできます。さらに複数のユーザーで共同作業することも可能です。これは非常にパワフルで、これらの新しいワークフローをユーザーの皆さんがどのように取り入れるか、とても興味深いです。今回、NABの会場であるお客様ととてもよいお話しができました。Resolveとオーディオの新しい方向性について、お客様とアイデアを交換しあえたことはとても進歩的な時間でした。

ーDaVinci Resolveはすでに映像制作業界のスタンダードソフトウェアの一つになりました。これからのDaVinci Resolveの今後の構想はどのようなものですか?

グラント:今後は2つのワークフローが出てくると思います。編集、カラー、オーディオのスペシャリストがそれぞれ、DaVinci Resolveのツールで自分の得意とする分野を使い、共同作業をしていく。または、エディターがカラリストに編集室に来てもらい数時間作業してもらうというやり方です。これは、現在編集とカラーのワークフローで実際に行っていることで、オーディオの分野にも広がっていくでしょう。
しかし、他のユーザー、特に若い方々はひとつのことしかできないツール、というもの自体を知らない時代がくるでしょう。つまり、(DaVinci Resolveのようなオールインワンの)ツールセット間を行き来して、すべての役割を一人で行うのです。仕事の仕方も変わってくるかもしれません。アーティストが音楽をミックスして、その後にそのオーディオのレイヤーがたくさん重なったタイムラインを使って、音に合わせてビデオ編集をすることだってできるでしょう。つまり、完パケしたオーディオトラックを使ってミュージックビデオを編集する代わりに、すべての素材にアクセスできるんです。これであれば、オリジナルがステレオトラックでも、タイムラインにあるオーディオの素材にアクセスしてサラウンドミックスでも作れてしまうんです。
実際にどうなるかはもちろんわかりませんが、可能性はあると思います。何が起こるか楽しみですね。

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ーグラントさん個人としては、カラーグレーディングの方向性として、どのような作品や傾向が好みですか?好きな映画、TVドラマなどの作品があれば教えてください。

グラント:すごくいいご質問ですね!お客さまの手掛けられたさまざまな作品のルックにはいつも驚かされます。カラーは映画やテレビ番組を特徴付ける要素のひとつだと思っています。どのようにその役を演じるか、またはどのような撮影をするのか、といったようなこと同じように、カラーも完パケされた作品を構成するパーツであり、そのすべてのパーツが組み合わさり、全体の仕上がりに影響を与えます。
私がポストプロダクションで働いていたとき、カラリストはいつもアカデミー賞にカラーコレクション部門がないことに不満を抱いていました。彼らの作品への貢献度はかなり大きなものですから、当時から、彼らの言い分は理解できました。
私の個人的なカラーコレクションの好みとしては、そのシーンをカラーグレーディングをしているとほとんど感じさせないような、繊細なものが好きです。つまり、撮影した画をきれいに整えて、撮影された映像に対してあまり大げさに色をいじらず、撮影素材の良さを引き出すようなものが好きです。特定のカラースタイルであれば、シーンに自然や有機的なものが含まれている場合に、そのearthy(自然な、土の)なトーンをうまく引き出しているようなスタイルが好みです。また、UltraHDの最大の利点は質感の表現にあると思っています。SDからHDへ移行した頃を覚えている人は多いと思いますが、そこでみんなが驚いたのが画像のディテールの表現です。対して、Ultra HDは質感がすべてと言ってもいい。皆さんが気づくのもそこだと思います。カラーグレーディングでも、この質感をどうするかで、いろいろなことができます。
私は、近代建築が完璧にクリーンで精密にグレーディングされたルックが大好きです。建物の素材や周りの様子なども作られた当時のように美しい状態。経験豊富なカラリストが手掛けた作品では、驚くような美しいシーンがたくさんあります。

ーURSA mini proは、どちらかというと放送/ENG/EFP(Electronic Field Production)向けの製品のように思われますが、貴社としての開発意図は?

グラント:URSA Mini Proは確かに放送向けカメラの見た目です。このカメラを理解するには、放送用カメラの持つ素晴らしい機能とそのユーザーがどうカメラを使っているかを知ることが重要です。放送用カメラは、大量の仕事を受け持つ放送やENGカメラマンのニーズをもとに、数十年にわたって進化してきました。私たちはそういった機能を自分たちのデジタルフィルムカメラに搭載したら素晴らしいと考えたのです。デジタルフィルムカメラは、見た目が悪く、操作性に制限があると誰が決めたのかはわかりません。ただ、放送用カメラの持つ優れた人間工学の要素や機能群をデジタルフィルムカメラに搭載したら、よりスピーディに、より使いやすくなると思ったのです。
なによりも、放送関係者がずっと使ってきたようなカメラにデジタルフィルムの利点が何故つけられないのでしょう?私たちはURSA Mini Pro でデジタルフィルムのクオリティと、さらにはカラーグレーディングをも放送の仕事にもたらすことができるのではと考えています。それは放送のクオリティに革命を起こし、このマーケットに今までは不可能だった何かをもたらすでしょう。これが私が好きなことなんです。そしてそれは問題解決にもなっています。お客様自身がその問題に気づいていないこともありますが、それこそが私たちの使命なのです。テクノロジーを見据え、どのように業界を良い方向に変えていくかを考えるのです。URSA Mini Proへの反応を私たちは喜ばしく思っています。今、一番の問題は、充分な数のカメラをいかにはやく作るかですね!

ーNAB2017では、Cloudシステムが一つのキーワードだったように思います。
AvidがCloud Editingを構想したり、Facebook、Youtube、Vimeo、Amazon,comなど、SNS、OTT、Net-Communication関係企業の出展も目立ちました。
ブラックマジックデザインはこれらの分野への構想や興味はありますか?今後何かしら、Cloud、SNS、OTTなどの分野への進出は考えていますか?

グラント:これらのいくつかはただの流行で、私たちはそういった流行に乗ったり、「みんな」がしていることをベースに会社を運営することはありません。私たちは常にお客様の目線で物事を見るように努めています。 特定のブランドに言及はしませんが、私はBlackmagic Design の経営に忙しすぎるので、他の企業がしていることに対して、なぜをそれをしているのかという理由はわかりません。しかし、クラウドライセンスを例として、お話ししたいと思います。
私自身はクラウドはテレビ業界の災難と思っています。クラウドは、定期的にユーザーにお金を支払わせてソフトウェアメーカーがより多くの利益を上げるためのものです。そして、強制的にアップグレードもさせます。
新しいOSが出るたびにソフトウェアアップグレードをして、ユーザーにアップグレード料金を支払わせる、(この業界の)古い慣習よりもさらに悪いものです。そもそも、クラウドにしてユーザーにとってどんなメリットがあるのでしょう?私がこれを訴えるのは、(クラウドライセンスが)毎月支払いが発生する強制アップグレードになっているからです。このサブスクリプション方式のソフトウェアリリースは、ある業界では有効だと思います。 しかしこの業界では、ユーザーに毎月支払いを要求することなくソフトウェアを提供するのが重要なのです。その理由は、映像業界の人たちはフリーランスも多く、毎月給料が支払われるような人ばかりではないからです。もし、彼らが一月分の支払いができなくて、ソフトウェアの使用を止められたら、彼らが最も仕事をしなければならない時に、仕事をする能力を奪うことになります。
さらに、この業界では、いつもインターネットに接続できる環境で働けるわけではありません。また、ハイエンドの仕事をしている方々は、手がける大作映画やテレビ番組のセキュリティの問題でワークステーションにインターネットを繋げられないこともあります。DaVinci も、もともとはそういった映画やテレビ番組用のハイエンドツールでした。そのため、インターネット接続がなくても、ソフトウェアが使えるようにする必要があり、ソフトウェアは常にサーバーをチェックします。
ラップトップユーザーの方が便利なように、将来的にDaVinci Resolveがライセンスキーに移行したとしても、インターネットが繋げられないワークステーションのためにドングル版が買える選択肢は残します。
クラウドライセンスに関する、もう一つの大きな問題は、ユーザーが仕事の途中でもアップグレードを強制されることです。私は、何かのOSでアプリケーションが自動アップグレードをしているのを見たことがあります。もし、これが何かのプロジェクトの仕事中に起こっていたら恐ろしいことです。何か悪いことが起きたら、そのプロジェクト自体が止まってしまいかねません。ハイエンドの仕事では、膨大なお金が動いているので本当に怖いです。
クラウドは映像業界にソフトウェアを販売するには非常に怖い方法だと思っています。少なくとも、クラウド以外のオプションも用意すべきです。クラウドはお客様にとってメリットがあるとして、今トレンドですが、こういった問題を見ても本当にメリットがあると言えるでしょうか?私にはただの情報操作に見えます。

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ーいまや世界のポストプロダクション、プロダクションでBMD製品を見ない場所はありません。会社が大きくなり世界企業になったことで、最も変わったことは何ですか?また変わらないことは何でしょうか?

グラント:そのように思っていただけるのは、本当に素晴らしいことです。弊社がこの業界の他のメーカーと違う点は、私たち自身が「怒(いか)れる客」ということです。私がポストプロダクションで働いていた頃、製品クオリティの低さとデザインの悪さに驚いたものです。なぜ、SONYはこんなに素晴らしい製品が作れるのに、他のメーカーはそれができないのか?とよく思っていました。そのため、私はエンジニアとして何かしたいと考え、製品を作り始めたのです。私たちはコンピューターにつける10bit SDIのキャプチャーカードから始めました。コンピューターとソフトウェアが映像業界を切り開き、よい方向に変化を与える可能性が最も高いと感じたからです。長年、私たちは業界が良い方向に変化すると証明してきました。創業当時の弊社と現在の大きな違いをあげるとするなら、現在は当時よりも高いレベルで、問題を解決し製品開発ができる素晴らしいエンジニアとデザイナーのチームを抱えているということです。他の分野に関しても、過去のどの時期と比べても高いレベルで仕事をするスタッフがいます。
今でも変わらない部分は、映像業界のヒーローは私たちではなく、お客様であると理解している点です。私たちは今でも、業界で働くヒーローであるエディター、カラリスト、デザイナー、カメラマンといった人たちのクリエイティブな才能にフォーカスしています。(業界にとって)重要なのは彼らであり、私たちは彼らをサポートするのが仕事です。もし私たちが高いレベルの製品を作り、さらにそれが信頼性もあり価格も手頃なものであれば、機材というものはどんどん重要なものでなくなるでしょう。私たちのゴールは、機材が一般的なものとなりクリエイティブな人たちは誰でも手に入れられるようになることです。結果的にクリエイティブな仕事自体が注目されるようになり、機材は目立たないものとなるでしょう。私たちはお客様がダンスをするためのステージのようなものです。私たちは彼らをサポートする役割を担うためにいるのです。