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【HOTSHOT インタビュー】VRによるシチュエーションコメディ「ベンチャーですけど」を共同制作 VR×演劇ユニット イナカ都市 大森信幸氏、VR映像作家「渡邊課」 渡邊徹氏

- ベンチャー企業が舞台のコメディタッチ短編映像、声優の声で視聴者も参加体験 -

編集部:小林直樹

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今年3月、VR演劇「イチコの一生」で、VRを舞台に取り込むことで新たな演出を試みたイナカ都市の大森信幸氏が、VR映像作家として活動する渡邊課の渡邊徹氏とVRによるシチュエーションコメディ「ベンチャーですけど」を共同制作した。8月2日からDMM動画で提供されている。

イナカ都市は、VR演劇「イチコの一生」やVR映画「1K」などを制作している。「イチコの一生」は、観客に主人公であるイチコが死ぬ間際に見た走馬燈をVRコンテンツとして視聴させることで、今までにない不思議な劇体験を提示した。また、公演自体をVRカメラで撮影し、VRコンテンツとして配信することでコンテンツ収益を作るという演劇ビジネスの新たな形に挑戦している。

「ベンチャーですけど」EP1 サンプル映像

渡邊課は、株式会社コンセントにおけるラボとして発足し多岐にわたる実験的なVRの映像を手掛けてきた。渡邊課の渡邊徹氏は、VR映像作家としてライブVR映像やミュージックビデオ、アニメをベースにしたVRなど、さまざまな360度VRの実績を重ねている。

これまでミュージックビデオやイベント、企業VPのVR作品など、実写撮影による数々のVRコンテンツを手掛けてきたが、お笑いやドラマといった作品を制作するのは、今回が初めてという。

初のVRシチュエーションコメディを手掛けた二人に制作のねらいや今後の展開などについて聞いた。

大森氏と渡邊氏 
左=脚本・監督の大森信幸氏(イナカ都市)、右=VR制作を担当した渡邊課 渡邊徹氏(Concent, Inc.)

■コメディに参加している体験

大森氏と渡邊氏が共同で制作するきっかけとなったのは、渡邊氏が「イチコの一生」を見たことがきっかけで、渡邊氏から共同制作を提案したのが始まりという。「ベンチャーですけど」の共同制作の経緯について、渡邊氏は次のように説明する。

「『イチコの一生』を演劇として見たのが、大森さんと出逢うきっかけです。『イチコの一生』では、主人公のイチコが亡くなる前に見た、走馬燈のように浮かぶこれまでの人生をVRで観客に事前に見せることで、その後の舞台上の展開にオーバーラップさせている。観客は走馬灯を通じて物語を一度体感しており、演劇をデジャブのような感覚で楽しめるのはとても新鮮でした。そこで、演劇や舞台の新たな体験を大森さんといっしょにつくりたいと思い、共同制作を提案しました」(渡邊氏)

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「演劇や舞台の新たな体験を大森さんといっしょにつくりたいと思い、共同制作を提案しました」と語る渡邊氏

今回の作品は、いわゆるシチュエーション・コメディのスタイルを採っている。特徴は、VRヘッドマウントディスプレイを装着する視聴者が、あたかもそのシチュエーションの中にいて、コメディの展開の中の一参加者のような体験ができる点だ。

主人公(視聴者)はあるベンチャー企業の新入社員。入社した会社のオフィスで、先輩の同僚とともに休憩室で休憩をしている状況で生まれるやりとりを、5分から10分の4本のショート・コメディとして映像化している。3人の先輩社員とテーブルをはさんで座っている新入社員の視野から、目の前で繰り広げられるコメディを楽しむのだが、先輩からのなにげないインタラクションで、新入社員である視聴者も、まるで自分がそこにいるかのような感覚にさせてくれる。

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「EP3:漫画セリフしりとりですけど」から 漫画のセリフをiPadを使って見せるシーン

「今回の場合、舞台と観客席ではなく、実際のオフィスの休憩室というシチュエーションです。ストーリーが展開される中で、自分が傍観者として見ているような、置いてきぼりにならないような働きかけをすることで、まるで自分もその物語の展開にからんでいるような体験をしてもらおうと考えました」(大森氏)

脚本・監督を担当した大森氏は、舞台をベンチャー企業としたねらいを「登場人物が個性的で多彩な才能や性格の人が集まる場所だから」と話す。4話のコメディは「テーブルサイズで展開するコンテンツ」をイメージして構成しているという。話題のコミックや、フリードリンク、研修旅行など、オフィスの休憩時間にありそうなものや話題を取り上げている。1話だけゲスト社員が登場する話では、プレゼンで良く使用するパワーポイントでちょっとした芸のようなネタを披露する。

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 「EP4:ピクニック会議ですけど」から 白井軽人によるパワポのプレゼンのシーン

「いずれもオフィスの休憩時間に出そうな話題であるとともに、VRを見る人が多いネットカフェや漫画喫茶にもありそうな素材を考えました。コミックは、漫画喫茶の書棚にあっても、普段あまり手に取らないような作品をテーマにしています。コメディを見て、手に取って、実際に使ったくだりを見てもらえれば、より楽しみも増すと思います」(大森氏)

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「まるで自分もその物語の展開にからんでいるような体験をしてもらおうと考えました」という大森氏

■目配せやセリフ入りのやりとりで存在感

撮影は、180度VRカメラの「Z CAM K1 PRO」を使用している。「オフィスの休憩室でテーブルを囲んで椅子に座って話をしているというシチュエーションから考え、通常の視野として考えられる180度にしました。カット割りをせず、一発録りの長回し。中には10分を超えるものもあるので緊張感のある現場でした。カメラの位置は主人公として椅子に座っている場所からの視点なので、話を聞く側としてカメラは固定で撮影をしました。その中で飽きないように、人物の動きや位置関係や、パーソナルスペースに踏み込むような動きを意図的に作りテンポ感のある映像をつくっています」(渡邊氏)
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「EP4:ピクニック会議ですけど」から 干し芋を目の前に差し出される。

演出的には、「観客」ではなく、そのストーリーにからんでいる同僚としての雰囲気を醸し出しながら、ストーリーを見せるように工夫されている。具体的には、コメディが進む中で、先輩社員がこちらからしか見えない合図を送ってきたり、こちらに目配せをしたりすることで、視聴者がいる位置に実際に新入社員役がいるように感じさせてくれている。

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「EP1:初出社ですけど」から 入社面接を受けるシーン

斬新な試みとして、視聴者側の新入社員にも少しセリフを持たせて、コメディの展開の中で実際に声優による声を入れている。イケメン新入社員という設定で、声優には野島裕史氏を起用している。野島氏は、TVアニメ「イナズマイレブン」(2008年~2014年)、「キングダム」(2013年)など数々のアニメ、映画で声優を務めた実績を持つ。

「当初、新入社員の会話は文字スーパーで表現しようと考えていたのですが、HMDの映像の中で文字表示の位置を固定すると、見ている方向によっては、文字が視野に入らないことになるので、文字はあきらめて、声を入れることにしました」(大森氏)

「やってみてから気付いたのですが、野島さんの声でタイミング良く会話が流れることで、まるで自分がイケメン新入社員の役を演じているような面白い体験になっています。スパイク・ジョーンズ監督の映画『マルコヴィッチの穴』(1999年)という作品では、実在する俳優のジョン・マルコヴィッチの頭に通じる穴を見つけるという設定で、主人公は最初、ジョン・マルコヴィッチとしてものを見たり聞いたりする面白さを体験しますが、それに似た感じですね」(大森氏)

「新入社員の声はアフレコで、撮影時には野島さんはいませんでしたが、新入社員のセリフがない中で、同僚役の役者がうまく対応してくれました。アフレコでは、野島さんがHMDを装着し、コントの進行に合わせてセリフを話しますが、ところどころに絶妙なタイミングでアドリブが入っていて、それが良く臨場感を出すことにつながっていますね」(渡邊氏)

 

■渡邊氏「海外展開も視野に言語にとらわれないVRコンテンツ開発」

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今回、大森氏との共同制作による初のストーリー作品を手掛けたことで、渡邊氏は「視聴者が参加型のVRコンテンツは、VRの一つのスタイルとしてこれからもいろいろなバリエーションが考えられそう」と手応えを感じている。渡邊氏はまた「海外市場を意識した展開を計画中」と話す。「すでに、ストーリーものでない作品では海外でも支持を得られており、中国市場など、多くの若い年代の人がVRコンテンツに関心を持っていることが感じられます。言語にとらわれないコンテンツを意識していくことで、日本に限らず、より多くの人たちにリーチできると考えています」(渡邊氏)

■大森氏「VRは距離間が演出の鍵。演劇とミックスした新たな企画を構想」

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大森氏は、今回の渡邊氏とのシチュエーションコメディの制作で、距離間の重要さをより強く認識したと話す。「離れた位置から見ていると喜劇のように滑稽に見えるのに、実は当事者はそこで恐怖を感じていることがあるように、同じ情景でも劇場のような広い空間で客席から見た印象と、役者と一緒の空間で見た印象は大きく異なります」

「どういうシチュエーション・場所を、どういう距離間で見せるかという設計次第でいろいろなアプローチが生まれる。こうした距離間をうまく使うことで、VRと演劇をミックスした新たな企画をつくっていきたい。コンテンツの制作費はまだ厳しい状況ですが、VRは空間やストーリー展開の設計を工夫すればおもしろいコンテンツを作れると考えています。劇での新しい見せ方や、VRの使い方を来年へ向けて準備しています」 

 

【作品情報】

脚本・監督 大森信幸(イナカ都市)

VR制作 渡邊課(Concent,Inc.)

出演 野島裕史(声のみ)、深見由真、倉田奈純、安川まり、平田耕太郎

【関連リンク】

渡邊課:https://watanabeka.persona.co/

イナカ都市:https://inakatoshi.wixsite.com/inakatoshi-official/news

イチコの一生:https://www.dmm.com/digital/video/-/detail/=/cid=5631dmmvr00008/?i3_ref=search&i3_ord=7

「ベンチャーですけど」(DMM):https://www.dmm.com/digital/video/-/detail/=/cid=5658wtnbk00001/?fbclid=IwAR34ymw_HSoAO9pqHri0IULlUnFLh5jvjf0RN5fXyx4PaBicT1AtKzrEbXA