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【インタビュー】テラスサイド 第1回公演 VR演劇「Visual Record ~記憶法廷~」を上演 VR同時視聴システムで観客に「もう一つのスクリーン」を提示

- マルチエンディングなど演劇に新しい切り口生み出す -

チラシオモテ面

テラスサイド 第1回公演 VR演劇「Visual Record 〜記憶法廷〜」

 

VR演劇「Visual Record ~記憶法廷~」が6月27日から7月1日まで、目黒区の中目黒ウッディシアターで上演される。”VR演劇”と冠したこの劇は、VR映像がストーリーと密接に関わっている。VRを導入することで、結末の異なるシナリオが用意され、さらに観客の投票で結末が変わるという斬新な発想が組み込まれている。総合プロデュースを担当したテラスサイドの玉井雄大氏は「1度見ただけでは真実にたどり着けないかもしれない」という。玉井氏に、上演までの経緯や、今後の展開などについて聞いた。

 

■「VR同時視聴システム」で多人数のHMDにVR映像を同時再生

VR映像を視聴するために使うHMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)は通常、それぞれにコントローラーやスイッチがあり、起動や映像の再生などを個別に行う必要がある。会場で不特定多数の観客に操作してもらうには、説明などに手間や時間がかかり、HMDの使用経験の有無などでどうしても差異が出てしまう。さらに、通信環境など技術面の制約などもあり、同時に映像を配信するのは最大20人程度が上限だったという。

KDDIが3月に発表した「VR同時視聴システム」により、 現場に専門家がいなくてもタブレット端末1台で、多数のHMDの動画の同時再生ができるようになった。個別のHMDが装着されているかどうかや故障の有無なども確認できる。最大100台の同時配信が可能で、演劇やスポーツなど、各種のエンターテインメントや、職業トレーニングなどでも進行中に集中力を欠かずにHMDで映像を同時視聴でき、VRコンテンツの用途が拡大すると期待されている。

 

■観客が演劇の結末を左右する陪審員役、VR映像は証拠物件

VR演劇「Visual Record ~記憶法廷~」 は、舞台を近未来の法廷に見立てている。その法廷である事件の裁判が開かれ、観客はその裁判の行方を左右することになる陪審員という設定だ。裁判で証拠物件として提出されたものにはすべて、映像記憶の機能があるという設定で、裁判中、その証拠物件が事件当初に”記憶”した映像を再生しながら検証が進められていく。

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証拠物件の”記憶”=VR映像を検証する場面(「Visual Record 〜記憶法廷〜」より)

 

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舞台上で見ているVRを観客席で同時視聴。観客も「有罪」か「無罪」かの投票に参加する(「Visual Record 〜記憶法廷〜」より)

 

KDDIの「VR同時視聴システム」は、その証拠物件が記録した映像を陪審員として再生・確認するために用いる。裁判の進行にあわせて証拠物件のVR映像をHMDで確認していき、劇の最後では、有罪か無罪かを陪審員である観客の投票による多数決で決める。ストーリーの結末は、有罪の場合と無罪の2通り用意されているわけだが、どちらになるかは、観客が決めることになる。観客自身が劇に関わり、それにより2つの異なる結末のどちらかを見ることになるわけだ。自分の判断が結末を変えてしまうということで、これは「観劇」ではなく「体験」と呼んだ方がいいのかもしれない。

 

■VR同時視聴システムとの出会い

玉井氏が今回のストーリーを思いついたのは昨年。役者さんとの飲み会で思いついたという。「未来の裁判で、VRの映像が証拠になったらおもしろいのではと言うのを聞いて、確かに成立すると。そこで、演出家、脚本家を探して、昨年7月に書いてもらいました。そのときは一斉送信のシステムがなくて、暗中模索状態だったが。誰かが開発するだろうと(笑)」

「システムが決まらないまま、劇場も抑えないと半年前ぐらいから埋まってしまうので、先に劇場を抑えて、いろいろな人にヒアリングしていったら、今年の2月にKDDIが開発したとお聞きして、”待ってました!”と相談しました。ある意味、懸けでしたね」

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同時視聴システムとの出会いがVR演劇実現への扉を開いた(玉井氏)

 

「ボタン一つで再生できる簡単なGUI。めちゃめちゃ演劇向きだと思いました。とにかく、オフライン環境でできるのがとても良かった。ほんとにタイミングが良かった。これがないと間に合わなかった」(玉井氏)

 

■広告代理店から一念発起して映画・演劇のプロデュース会社を設立

玉井氏は今年3月に独立しテラスサイドを設立。今回のVR演劇「Visual Record ~記憶法廷~」は、昨年から準備を進めていたもので、演劇としては新会社で手掛ける初作品となる。

テラスサイド設立以前、玉井氏は博報堂DYメディアパートナーズに所属し、VR映像によるブランドムービーソリューション「VR Story Seek」の企画開発を担当していた。「VR Story Seek」は、エイベックス・マネジメントと博報堂DYメディアパートナーズの共同プロジェクトで、企業のブランドイメージをVR映像で体験できるコンテンツとして開発した。3人の気鋭の監督を起用し、それぞれ3社の企業のVR映像によるブランドムービーを制作し、昨年6月に開催された「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2018」のVR部門で上映され、話題を呼んだ。

VR作品制作に携わる中で、玉井氏はVRが舞台演出との親和性が高いと感じていたという。「VRは基本的にカメラを固定して撮影するので、空間演出に近く、役者に求められることも舞台演出に近い。表現方法がみな演劇的なアプローチ。その親和性を実際の演劇で生かしたいと思った」(玉井氏)

 

■ニューヨークで大人気の「スリープ・ノー・モア」が発想のきっかけ

そもそも、この劇の発想のもとは、ニューヨークで話題となっているオフ・ブロードウェイ「スリープ・ノー・モア(SLEEP NO MORE)」からだとう。

「ニューヨークのオフ・ブロードウェイで今、大人気の体験型ミュージカル『スリープ・ノー・モア(SLEEP NO MORE)』という劇があります。これは、使われていない、いわゆる”廃ホテル”を劇場としており、5階建てのホテルの各フロアが舞台となっているんですが、観客は全員、仮面をつけて自分の好きなようにホテルの中を見て回ります。各フロアでは、役者が無言劇を繰り広げており、舞台と客席の区別がない空間で自由に演技やセットを見て回ります」

「今、この劇が2011年の上演以来、オフ・ブロードウェイで大ヒットしており、その余波で上海でも上演されることになったそうです。日本ではまず、こういった広い施設を劇場に使うことが難しい。それならVRでそれに近い体験を実現できるのではないかと考えたのが、今回の劇の発想のきっかけです」

 

■一つの”真実”に二つの脚本

そうした新しい「体験」を劇で提供しようとする思いとVRという新しい技術の導入によって、これまでにない新しい劇の形をつくりだすことになるかもしれない。

この劇で非常に重要なポイントは、有罪か無罪かという劇の結末に関わらず、裁判の対象となった「事件」で起きたこと自体は「同じ」ということだ。「同じ真実から、参加者が異なる体験を楽しめる」という点で、まさに「スリープ・ノー・モア」と同じ方向を目指しているということがよくわかる。

実際の裁判もそうだが、過去の出来事(事件)を検証するためには、「証拠物件」と「証言」から類推することしかできない。その類推の根拠や証拠の内容によっては、同じ真実でありながら結末が変わってしまう。仮想の体験ではあるが、舞台劇の新しい醍醐味ともいえるのではないだろうか。

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観客は常に、舞台で進められている劇の行方に関わる立場で劇を見ることになる(「Visual Record 〜記憶法廷〜」より)

 

話は飛ぶが、寺山修司はかつて「観客席」という舞台で、客席に俳優を座らせて演技をさせるという試みをしている。それは、観客と役者、観客席と舞台という固定した観念に基づいた劇やそれを観る人たちへ向けた、表現者としての矜持を示したものだといえる。しかし、陪審員として参加する今回の劇の観客は、自らが結末に影響するわけだから、そんな固定観念は吹き飛ばされており「安心」できない立場に置かれているともいえるだろう。そしてさらに言えば、観客もまた、その事件で実際に何が起きたのか、そして被告のほんとうの真意を知りたいと思う気持ちが強まるはずだ。

実は、証拠物件であるVR映像は一部故障しているという設定になっている。これにより、映像が断片的な部分がところどころにあるという。そのため、映像を見ることができても、実際の状況を類推するしかない場面もある。

玉井氏によれば「勘のいい人なら、1回でわかるかもしれないが、多くの人は『有罪』と『無罪』の二つの結末を見ないと、この事件の『真実』へたどり着くことができないかもしれない」という。

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役者自身もどちらを迎えるかわからない二つの結末へ向け、緊張感のある劇が展開される(「Visual Record 〜記憶法廷〜」より)

 

■マルチエンディングにたたみ込まれた「真実」とは

目の前でリアルタイムに進行する演劇で、マルチエンディングを用意するということは、想像以上の緊張感があり、観客にとっては間違いなく面白いと期待できるが、脚本はそのマルチエンディングの分用意する必要があり、役者もすべてのエンディングにあわせてセリフを覚えておく必要がある。これはキャストやスタッフに相当な負荷がかかることは間違いない。

「確かに、めっちゃ大変です(笑)。判事役は、セリフ量が膨大すぎてまいっていますし、演出、脚本は両方ともに、ドラマとして成立する形をつくらなければならない。難しいのは、どちらかに誘導しがち。それがどちらともわからない脚本を書いてもらっています。そこは、『ロジカル・コメディ』を得意とする電動夏子安置システム主宰の竹田哲士さんに脚本をお願いしているので、ほんとにすごい、作り込んだトリックをつくってもらえました。裁判の対象となる事件の中にトリックがいっぱい隠されている。その状況の一端がVRに収まっているんです」(玉井氏)

 

■VRの見方(向き)で異なる心象

玉井氏は、脚本家にどんな依頼をしたのだろう。

「前を向いている人と、右を向いている人によって、心証が変わるようなシナリオをつくってくださいと、お願いしました。その証拠に気付いた人と、気付かなかった人との違いをつけないと意味がない。無罪バージョンでも、有罪バージョンでも、80%しか真実を語っていない。それぞれが異なる側面しか見ていないので、両方のエンディングを見てもらうことで、100%真実を解明できる。一つの演劇でいくつものパターンを楽しめるようになっています」

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「有罪」と「無罪」、二つの結末を見て、初めて「真実」を知ることができるという(「Visual Record 〜記憶法廷〜」より)

 

■VRによるシネアド提供で新たな収益源も

「Visual Record ~記憶法廷~」は、6月27日が初演。今まさに絶賛開演中だが、玉井氏の構想は次の作品へと膨らみはじめている。

「ステージ上の演技にVR映像を加えるということは、観客にもう一つのスクリーンを提示できるようになったといえます。KDDIのシステムを使えば、そこに個別の映像コンテンツを提示することができる。これは、同じステージを見ながら、異なる体験につなげることができる可能性を持ったことになる。HMD内のセンサーを使って、ユーザーの視線の動きによって分岐を設定すれば、さらに複雑な展開が可能です」

玉井氏はまた、VRでシネアド的なCM映像を流すことで、新しい収益の可能性も期待できるという。「通常は劇の冒頭で、携帯電話のマナーモードへの切り替えなどの注意喚起をしますが、これをVRに置き換えます。その中でCMを流すことができれば、これまでのチラシに代わる収益源として期待できます。HMDを装着することで、仮想の大型のスクリーンで動画のCMを見せることができる。コントローラーで着脱の状態もわかるので、リーチ数も出せます」

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「VRで培ったノウハウはどんどん提供していきたい。みんなで新しい舞台のしくみをつくっていきたい」(玉井氏)

 

■新たな劇の演出、ビジネスのサポートを積極展開

新たな収益としてはこのほか、ゲネプロのときに撮影した座席視点の映像と、VRによる証拠映像を組み合わせたもので、DVDパッケージ販売をする計画もあるという。「まだHMDを持っていない人も多いので、今回は簡易型のVR用ゴーグルとセットにした予約注文販売も考えています」(玉井氏)

現在は、HMD内蔵のメモリーに記録された映像を再生する形だが、KDDIは今後、5Gが本格化すれば、動画の同時配信も可能という。将来的には、座席にカメラを置いて、劇場にいる雰囲気を楽しみながらの観劇もVRのライブ配信が可能だ。「座席予約が1時間程度で売り切れてしまう人気の舞台がたくさんあります。VRライブ配信なら、劇場に行けない人に自宅で楽しめる廉価版のチケットを提供することができます」(玉井氏)

玉井氏は「テラスサイドとしてはVRゴーグルの提供やコンサルタント的なスタンスで、演劇に携わる多くの人にノウハウを提供していきたい」という。「いろんな人がどんどん、新しいしくみをつくっていき、新しい演出方法を発見してもらい、みんなで新しい市場をつくっていきたい」(玉井氏)

 

【テラスサイド 第1回公演 VR演劇「Visual Record 〜記憶法廷〜」】

■CAST
吉倉あおい 岡本至恩
山口景子 小築舞衣 サトウヒカル
堤匡孝

■STAFF
脚本:竹田哲士(電動夏子安置システム)
演出:西条みつとし(TAIYO MAGIC FILM)

企画:サトウヒカル / キャスティング:松永一樹(アカツキエージェンシー)

プロデューサー:玉井雄大(テラスサイド)

VRシステム協力:KDDI / VR映像制作:Supership
制作協力・宣伝:style office

主催:テラスサイド

■STORY

「モノ」が目撃した記憶「ヴィジュアル」を取り出し、「レコード」として

記録することができるようになってから、警察組織は縮小し、裁判は簡略化の一途を辿る。
本来ならば、事件現場のヴィジュアルにより、この事件もすぐに解決するはずだった…。

被告人・樋口克哉。彼にかけられた殺人容疑を裁くため、招集された4名の代表陪審員。
現場に残されたのは、サイバー・テロによって、 不完全にしか記録されていない様々なヴィジュアル・レコード。

樋口を裁くのは代表陪審員の4名と、 陪審員である客席の「あなた」だ。

■オフィシャルサイト

https://www.terraceside.com/vr