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芳賀 弘之のハリウッド撮監的アプローチ

- #3 DUCLOS LENSESを訪ねて / Matthew DUCLOS氏インタビュー -

芳賀弘之 / 撮影監督

UP

カメラ・レンズ選びは、撮影監督がプロジェクトを進める上で、肝になる部分ではないだろうか。カメラの性能が上がり、ポスプロでの色調整が容易になってきて、撮影監督がそのクリエイティブを発揮する上で、特にレンズ選びは最も重要な作業である。Panavision社を訪れた際、撮影監督によっては同じレンズでもシリアル番号で選ぶ人もいる事を聞いた。それは、製造年の違い等で、レンズ玉のコーティングの仕方が違ったり、色味やハレ具合に個性が出るからである。まさしくレンズは撮影監督の拘りが見える大きな要素である。

2007年、学校の課題で撮影する折、学校から支給されるカメラのビデオな見た目が嫌で、Panasonic AG-HVX200にRedrock Micro M2をアダプタとし、NikonやCanonのスチルレンズを取り付けて被写界深度を出したり、レンズの特徴を楽しむやり方を覚えたのが懐かしい。その後2008年の11月にCanon 5D Mark2が発売されると、DSLR動画が加熱していき、多種多様なアダプタを用いる事で、益々スチルレンズや所謂ヴィンテージ・レンズへと目が行く様になってきた。当時、スチルレンズを用いる際は、どうしてもフォーカスや絞りのギアが無いもしくはシネマ用でなかったので、プラスチックのギアをネジで止めどうにか使っていた。その付け焼き刃なものでは不具合もあり、きちんとシネマ用に改良したレンズを「Cine-Mod」(※)というのを聞き、その第一線でやっていた「Duclos Lenses(デュークロス レンズ)」という存在を初めて知った。調べてみると、マウント変換や修理・メンテナンスだけでなく、研磨やコーティングに至るまで携わっていて、映像の核であるレンズに関して無くてはならない会社であり、いまやハリウッド映画・映像を支えている存在だ。

今回はハリウッド近郊のチャットワースにある、そのDuclos LensesのCOO(最高執行責任者)である、Matthew DUCLOS氏にインタビューを試みた。
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Matthew DUCLOS氏
※Cine-Mod=スチル用レンズを一部加工(モディファイ)して、シネマ用に作り替えたもの

ー 会社の沿革について

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Matthew : 2002年に創設しました。父(Paul DUCLOS)はそれまで同じ様な業務をしていましたが、以前から自分の会社を作りたく私を誘って小さなオフィスで2人で始めました。最初は少しの顧客に対して修理サービスを行っていました。Duclos以前、父は70年代にアンジェニューで働き始めました。東海岸のニューハンプシャーで2年程です。その後、カリフォルニアに移ってきて、Clairmont Cameraで数年働いた後、Kish Opticsで映画用特殊光学機器に携わっていました。その2,3年の後に独立しました。最初は長い間私と父だけでした。そして妹のMichelle をCFO(最高財務責任者)として迎え、技術者を1人雇い、その体制で数年が過ぎました。5,6年前から急速に増えていきました。

ー お父様がAngeniuxで働いていた時は何を?

Matthew : 父は、New HamphireのAngeniuxで、最も基礎から始めました。例えば、レンズブランクの端を研削したりです。ガラスを切断し、サービスへ渡したりしていました。その後、上司に相談し他の部署も任される様になりました。

ー Matthewさん自身はどうやって技術を学んだか?

Matthew : 全て父から学びました。Kish Optics(Duclos Lensesの前会社)で父が働き始めた時、当時私は10歳位でした。父はそこで多くの様々プロジェクトに従事していました。オーナー・父・もう一人の従業員だけでやっていました。学校の夏休みの時、私はとても簡単な基礎を手伝っていました。Kish Opticsは、ディレクターズ・ビューファインダーで有名ですが、それがいくつものパーツから成り立っていて、12歳の時は、アナモーフィックとスフィリカルの切り替えレバーを作っていました。そこからは雪だるま式に経験を積んでいきました。父はシンプルで時間がかかる作業等を私にさせてくれました。パーツを研磨したり、油を塗ったりしました。父に言われた通りにしてきたのです。19歳の時、父の誘いで、2年程Keslow Cameraで更に学ぶ機会も得ました。

ー どういった業務が多いか?

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Matthew : 大きく3つに分かれています。サービス・セールス・Cine-Modです。今迄16年間でもサービス分野が、最も多忙な業務です。セールスは時期に左右されます。例えば、NABSHOW前は新製品の発表があるので皆さん買い控えます。一方、年末は税金控除対策で皆さん沢山注文されます。

ー 人気のあるレンズブランド、Cine-Modは何?

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Matthew : Angeniuxは映画やコマーシャルで頻繁に使われ、メンテナンスを要するので多いです。特に24-290㎜ズームが多いですね。他にはKowaアナモフィックレンズはいつもみます。Cine-Modでは、ライカ(ライツ・シネ)Rシリーズが多いです。Cine-Modを始めた当時、Rシリーズは人気でしたが、Cine-Modしようとは思っていませんでしたが、最近は多くの映画人は何千ものRシリーズのCine-Modを待ち焦がれていて、大変人気です。

ー サービスのトレンドは?

Matthew : アンコーティングはとても人気ですが、高価です。費用対効果がない事もあります。またビンテージレンズは最近とても人気です。KowaやCanon K-35は異常な人気です。多くの撮影監督がその理由として、最近のデジタルカメラは綺麗過ぎるので、その角を取るためと言っています。ただ私はそれが必ずしも正しいとは思いません。ビンテージレンズは、それぞれに特色があってプロジェクトに応じて、独自の見た目を作り出せる。例えば、ツァイスのマスタープライムは綺麗で鮮明です。ただ、出来上がりは同じルックになるので、ポスプロで色編集やフィルターを当てて色味を変えます。一方、撮影監督は独自の変わったスタイルが欲しいので、一風変わったビンテージレンズに行きつくという事です。わざわざポストで作り直す手間がありません。

ー 最も困難なプロセスは?

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Matthew : それはやはりビジネスでしょう(笑)、 いい質問ですね。今まで考えた事ないですが、敢えて言うならレンズの仕上げ作業が一番難しいでしょうか。新しいペイントを塗ったり、アルミニウムパーツをアルマイト再処理して、オリジナルと同じ見た目にするのはかなり難しいです。違う見た目になったりして満足のいく仕上がりに中々ならない。調査にも時間がかかります。例えば、アルマイト処理ではパーツが限られていたり、古いパーツを入れ替えたり、処理の仕方も特定のブランドを要します。現在アルマイト処理をする何十ものショップがロサンゼルスにありますが、仕上げの種類によっては、北の離れたポートランドまで送らないといけません。ただ、ロシア製のレンズは悪夢なので、受け付けていません。脆くて、パーツの一貫性がないからです。6,7年前にもうロシア製レンズは受け付けないと決めました。ただ個人的にはロシア製レンズの描写は好きです。

ー アンコーティングはどうされていますか?

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Matthew : Duclos Lenses内では行っていませんが、受け付けてはいます。研磨をかけて、コーティングや傷は深くなければ、取り除けます。それから輸送します。コーティングの機械はとても高価で、恐らくこのオフィスと同じ位の巨大さです。しかもレンズ1個だけとかは出来ず、通常いくつものレンズを同時にします。元々何百ものレンズを一気にコーティングする様に出来ています。何社かパートナー契約しています。どういったタイプの描写かブランドによって変えます。

ー 日本のレンズの印象

Matthew : とてもいいですね。日本のレンズはここ2,3年良い調子ですね。世界の映画用レンズに於いて、今迄はドイツが一番でした。皆ドイツ製の機械やレンズ光学を好んでいました。フランスはAngeniuxが素晴らしいですし、イギリスもCookeやTaylor Hobsonといったレンズブランドと共に草分け的に活躍しました。多くの型を発明し、未だに牽引しています。しかしこの5,6年、ドイツやフランス製品は、日本の会社がデザインして組み立てています。個人的な意見では、日本のレンズデザインは、世界一と言えるでしょう。

ー 好きな映画やカメラはありますか?

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Matthew : 映画は好きです。特にどのタイプが好きとかはありません。皆さん映画に関しては「ホラーや西部劇はちょっと…」等色んな意見があるんだと思います。私は先ず映画作りの工程が頭にあります。どんな酷評な題材の映画で私が興味を持たなそうなものでも、沢山のクルーや誰かが全身全霊を込めてその映画を作っています。私はどんな映画にもチャンスを与えたい。題材や出演している役者等で映画の価値を軽んじる事はないです。私にとっては全て平等です。カメラに関しては特に好みはありません。レンズと同じであくまで道具だと思います。どんなレンズを使っているかより、結果として綺麗だとか狙い通りに撮れているかが重要です。カメラは絵画用の筆と同じです。ピカソは筆を使ってペイントします。筆がペイントをする訳ではありません。カメラはあなたのビジョンを実現化する、単なる道具です。あなたはカメラを使って、ブランドやモデルや年代に関わらずそのビジョンを具現化するのです。

ー ところでブランドのロゴは何のレンズですか?

Matthew : それは言えません(笑) 一個だけお話するとすると、昔のロゴは薄い線で出来てました。10年程前、小さい映画を有名な撮影監督が撮る事になったんです。私達は彼の為に特別にレンズ変換をしました。実際は、初めてオリジナルのSuper BalterレンズをPLマウントに変換するというものでした。その映画の製作者は、我々のロゴをクレジットに載せてくれたのですが、ロゴの線が余りにも薄く見えなかったのです。私達3人(私、父、妹)はとてもガッカリしました。目を細めてやっとで全く読めないのです。その夜帰宅後、デザインし直して今の厚みがあって単色で見やすいロゴになりました。それでそのデザインの元ですが…ダブルガウスのレンズとだけ言っておきましょう(笑)

ー 最後に日本のDuclos Lensesファンへメッセージを!

Matthew : 日本支店を作った方がいいですか?!(笑)よく分かりませんが、今やっている事を続けてください!難しい質問ですが、一般的な撮影監督に対しても言える事ですが、プロジェクトに応じて最良の道具を使って下さい。1つのブランドやレンズタイプに固執しないで下さい。出来るだけ多くの違うレンズを使ってテストしてみて下さい。製造元やブロガーの言っている事は信じないで下さい。例え私が言っている事でもです。自身でテストをしてください。
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Greg REILMAN氏(Senior Lens Technician)、Paul DUCLOS氏(CEO)、Matthew DUCLOS氏(COO)
Matthew氏とのインタビューを終え、大手で経験を積んだ父Paul Duclosが息子を誘い、始めは小さい家族経営の会社から、今やハリウッドのレンズ=クリエイティビティーを支える迄になった経緯と映像に対するリスペクトを感じられた。

2018年は、競合各社がLarge Format(大判)センサーのカメラを上位モデルとして発表し、古い中判レンズも取り上げられ、益々ビンテージレンズへの注目が集まっている。ハリウッドではアナモフィックは依然として人気で、カメラのレンタル機材屋もDuclos Lenses等とタイアップしてアンコーティングのレンズやリハウジングしたレンズを特別に作ったりと差別化を図っている。カメラ機材の個人オーナーも増え、老舗レンタル機材屋は、撮影監督が使いたいと思う様な独自の作家性に訴えかける特別なレンズに生き残りをかけているのではないだろうか。

私も撮影前のレンズ選びの時、時々オンラインのレンズ比較サイトや動画を参考にする事もあるが、Matthew氏が言っている様に、実際にテストをする事の方が本当に大事だ。それぞれの感性が違う様に、実際のシーンで投入するとカメラとの相性もあいまって、前評判と違った自分なりの評価と面白みが出てくる。また各々の照明スタイルとの組み合わせでも描写が変わってくる。絵画のプロが筆等の道具に拘る様に、撮影監督としてのレンズへの拘りは、センスそのものだと思う。今までは特定のカメラでは使用不可だったレンズを使用可能にして更なるアート性の向上を図ったり、修理やメンテナンスのサポートで安全性を確保したりしてくれるDuclos Lensesのような技術者が映像表現・アートを支えているのである。

私は無類のヴィンテージレンズ好きで、自分が生まれる前の当時のレンズ技術者が込めた思いや時間を超えた「美」を映し出すそのヴィンテージレンズにしか出せない空気感が自分の照明スタイルと合わさった時の化学反応を見た時に、モニターを通して息を呑む。

今回Duclos Lensesでインタビューをして、その素敵な一時をくれたのは、Duclos Lensesといった技術者のお陰なのだと改めて思い、畏敬の念を禁じ得なかった。

Photo:田中誠士