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NHK 番組技術展が開催 制作現場における番組制作の創意工夫が一堂に

- 4K-HDRで制作の大河ドラマ「いだてん」 SDRへの一括変換用カーブで作業効率化など -

編集部

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日本放送協会(NHK)は2月11日、12日の二日間、東京・渋谷のNHK放送センターで、NHK番組技術展を開催した。NHKの放送技術局など、番組制作の現場担当者の創意工夫を全国から集めて発表する場として今回で48回目となる。現場から生まれる技術であるため、日ごろの現場での効率化や新たな演出方法の工夫など、身近なテーマが数多く取り上げられている点が特徴だ。
会場となったフロアは、テーマごとの出展機器や映像を並べたブースが順路に沿って紹介された。テーマは、(1)4K8K〜超高精細映像と三次元音響、(2)最新技術の活用と創意工夫、(3)AI利活用、(4)緊急報道の4つの大きなエリアに分かれ、それぞれのエリアで個別の展示が行われた。

4K8K〜超高精細映像と三次元音響のエリアでは、国際宇宙ステーションにおける8K映像や8Kカメラシステムによる深海映像撮影、大河ドラマ「いだてん」による4K-HDRドラマ制作技術などが紹介された。

■ゲームエンジンをベースに開発した「SHV はやぶさ2 可視化システム」
国際宇宙ステーションのコーナーでは、国際宇宙ステーションから撮影した8K映像とともに、特別展示として、JAXAと共同で開発した「SHV はやぶさ2 可視化システム」が展示された。

国際宇宙ステーションからの8K映像は、RED「WEAPON Helium」を使用し、ニコンのスチル撮影用レンズを使用して撮影したもので、昨年12月1日のSHV開局特番で使用した映像と同じものが8Kで再生された。

「SHV はやぶさ2 可視化システム」は、探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウを探査する様子を実際の数値データにもとづいてリアルタイムにCGで映像化するもの。ゲームエンジンを用いており、あらかじめ宇宙空間の座標データをもとにしたCGの宇宙空間内に、リアルタイムの座標位置を反映したはやぶさ2のモデルを配し、多角的な視点から表示できるようにしたもの。SHV(スーパーハイビジョン)で表示しており、美しい映像で宇宙空間でのはやぶさ2の振る舞いを可視化している。

■8Kカメラで初めて微小生物の存在を認識
8Kカメラシステムによる深海の高精細映像の撮影のコーナーでは、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)と共同で開発した深海撮影用の8Kカメラシステムを展示。8Kカメラは日立国際電気「SK-UHD8060B」、レンズは、キヤノンの「CN7×17 KAS」を使用。深海の高圧環境での撮影に耐えるためのカメラ用、照明用の耐圧ハウジングも展示。耐圧容器は広和製だ。同コーナーでは、実際に深海で撮影した映像が表示されると共に、実際に撮影をした小笠原沖の推進約1,300mの海底の生物群や熱水噴射孔(チムニー)の模型が展示され、海底でうごめく様子をリアルに想像させた。

海底の撮影はこれまでも、HDカメラ、4Kカメラで撮影しているが「8Kで撮影したことで、これまで岩肌にしか見えなかった細かい模様が生物だということが一目でわかった。研究用のカメラとしてはうってつけ」と会場にいたJAMSTECの担当者は手放しで評価していた。実際に8Kによるチムニーの映像を見ると、噴射孔の周りに細かく小さい生物がうごめいているのがわかった。 JAMSTEC担当者は、「8Kカメラのおかげで、その場で海底の様子を見ながら、採取すべきものかどうかの判断がかなりしやすくなった」と話す。

■4K-HDRで制作の大河ドラマ「いだてん」 SDRへの一括変換用カーブで作業効率化
大河ドラマ「いだてん」制作における4K-HDRドラマ制作技術のコーナーでは、現在放映中の「いだてん」の4K-HDR撮影をSDRでも生かす制作ワークフローを披露した。「いだてん」は、BS4Kで4K-HDRで撮影した映像を編集し、4K-HDRによる放映をしており、ハイビジョン放送では、この4K-HDRで撮影・編集した映像に、独自の一括変換カーブを作成することで、色域を含めた変換を3D-LUTとして出力し、2K-SDRの映像を自動生成している。今回、IS-miniなど、各種の変換装置すべてに対応する3D-LUTを作成するためのソフトを開発している。

担当者によると、一括変換カーブを用いたワークフローを実施するのは「今回が初めて」だという。「これまで、HDRを用いたドラマはあったが、今回は年間で50本制作するため、時間的にはHDRをつくるだけでも手一杯。カーブを当て込むだけで、自動的にハイビジョン放送の映像ができればSDRの番組も同時につくれる」(担当者)
HDRとSDRの制作では、これまでさまざまな試行錯誤を繰り返し、中には別々に編集してきたこともあったという。これまで4K-HDRで撮影しても、編集・グレーディング段階で4K-HDR用、2K-SDR用を別々に作業するなど、さまざまな試行錯誤をしてきたそうだ。今回、一括変換カーブを用いることで「作業効率を大幅に向上させることができる」(同)。

■1つのドラマで1つの一括変換カーブ
一括変換カーブのデータは、1つのドラマで1つしかつくらない。そのため「ハイライト部分はHDRだと表現できているが、SDRだとディテールがとんでいる部分もある。SDRでは表現できない部分をHDRでは表現できるという違いはある」。「HDR、SDRで世界観が変わってはいけない。服の色や顔色・トーンなどが同じように見えるように、SDRでも演出的な意図を損なわない範囲に変換するための3D LUTのカーブをつくった」(同)。
「屋内・屋外など光の条件が異なる場合もある。が、手間をかけるなら別々ということもあるが、今回は1つの3D LUTでやろうと。成立していないところはない、というようなカーブにしている。なので、空は飛んでしまうが、見たいところは見られる。その兼ね合いが難しかった」(同)。

今回の手法は、今後、次回の朝ドラ・連続テレビ小説で同じく4K HDRで同じような手法をとる予定だ。今回、標準のコンバーターで読める3D LUTの形式に変換する装置を開発。同装置上でHDRからSDRに変換して得られたパラメーターを3D LUTに変換している。「汎用的なフォーマットになった3D LUTなら、IS-miniでも、編集機でも読むことができる。これにより、制作上の制約をなくし、4K-HDRの制作効率を高めていく」という。

■マルチカメラ操作を集中コントロールで容易に
4K8Kのエリアではまた「4K一体型カメラ取付型光リンクと収録部集中コントローラー」が展示された。これは、ドラマ制作等における4K一体型カメラの複数台同時撮影におけるカメラの一括コントロールを4K対応の光リンクで実施するもの。

光リンクにより、4K信号、カメラ制御、RET、タリー、TCC、電源などの長距離伝送が可能になった。また、集中コントローラーでは、各カメラの収録部を一括コントロールすることで、現場における映像の再生チェック時に、一人の操作で頭出し・同期再生ができるため、マルチカメラ撮影の映像のずれをなくすことができる。「演出的に、同時に収録した複数の映像を同じタイミングでチェックしなければならないとき、これまではそれぞれのカメラの操作を手作業で別々にやっていたため、どうしてもずれてしまっていた」(担当者)。

番組制作~最新技術の活用と創意工夫のエリアでは、伸縮素材を用いたカメラ用防水カバーや、離れた場所から編集結果を共有できる遠隔試写システム、クロマキーレス背景分離・合成システム「Keydream」などが出展された。

■伸縮性のある防水用布地でカメラをカバー

伸縮素材を用いた防水用カバーのコーナーでは、カメラに防水カバーを装着して展示。伸縮性のある防水素材を用いて制作したカバーは、縫合部分を二重に縫うなど、浸水を防ぐようにつくられている。技術局 開発センターで制作したものだが、大量生産というわけではないので、当面は東京近県における使用から始まるという。

 


薄手の布地のため、レンズの絞りなどの感触も損なわれることなく、多少伸縮性もあるので、カバーの外からカメラ操作も可能な印象だ。手作りに近い工夫で現場での困難を乗り越えようという思いが感じられた。

■セキュリティを確保しスマホ等でも試写可能に

遠隔試写システムは、番組の内容チェックのためのシステムで、ブラウザーを搭載していればスマホでも見ることができる。ポイントは、コンテンツのセキュリティを確保下上で視聴ができる点にある。「複数の番組に携わるプロデューサーなどの立場に人が、遠隔でも確認できるようにすることで、時間や場所に制約されずにテロップやストーリー展開などのチェックが可能になる」(担当者)。

システムとしてはほぼ完成しており、現在トライアル中だ。

■AIを活用して出演者のメタデータを効率的に生成
AI利活用のエリアでデモをしていた顔認識技術による「番組権利情報 作成基盤」は、現在手作業で入力している番組出演者のメタデータを効率化するための研究開発の一つ。顔認識技術を用いて、特定の俳優が移っている画像を抽出したり、似ている人物のグループ化などを実施。

 

 

これまでの実験では、10年ぐらい以前の同一俳優の顔を照合できたという。メタデータの生成サポート以外にも、番組検索などで使える可能性もありそうだが「使い方については手探り状態」という。

■4K360°映像をサーバーに3日間収録 スポーツ中継、緊急報道などに活用へ
緊急報道・放送確保のエリアでは、4K画質で全ての方向の映像を撮影・3日間収録、どこでも切り出し・生放送可能なサーバーシステムが展示されていた。

 


4Kの360°映像をサーバーに収録し、そこからリアルタイムに好きな画角を切り出せる。サーバーには3日分を収録できるという。全天候型のハウジングを用いる事で屋外での収録も可能だ。
今後は、トリミング技術を応用し、HMDでの視聴や、空港や火山監視などの緊急報道現場、スポーツ等の中継番組での活用を検討する。