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「BLANKA」愛と勇気の人間賛歌!

- 「ブランカとギター弾き」大西健之撮影監督 / 長谷井宏紀監督インタビュー -

HOTSHOT#4 大西 健之(撮影監督) / 長谷井 宏紀(映画監督)

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ヴェネツィア国際映画祭の出資により、フィリピンで撮影された映画「ブランカとギター弾き」(製作2015年、2017年7月29日から日本で劇場公開中)。制作はイタリアで、撮影はオールフィリピンロケ、役者陣はほとんどが演技初挑戦という現場で、言語は全編タガログ語。そしてカラーグレーディングや音といったポスト作業は韓国。このインターナショナルなプロダクションは、日本人監督の長谷井宏紀氏と撮影監督の大西健之氏の2人によって率いられた。2015年の第72回ヴェネツィア国際映画祭で初上映、マジックランタン賞/ソッリーゾ・ディベルソ賞を受賞。他にもカルカッタ国際映画祭やフリブール国際映画祭といった数々の映画祭でも受賞を果たしている。この撮影には、まだリリースしたばかりであったPanasonic VARICAM 35が使用された。多国籍プロダクションの裏側やロケ現場の様子、さらに独自の演出方法やいまの映画の在り方について、大西氏と長谷井監督に語って頂いた。

長谷井宏紀プロフィール

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岡山県出身。映画監督・写真家。セルゲイ・ボドロフ監督『モンゴル』(ドイツ、カザフスタン、ロシア、モンゴル合作/米アカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品)では映画スチール写真を担当。フィリピンのストリートチルドレンとの出会いから生まれた短編映画「GODOG」(2008年公開)では、 エミール・クストリッツァ監督が主催するセルビアの「クステンドルフ国際音楽映画祭」(Küstendorf International Film and Music Festival)で 2009年にグランプリ(金の卵賞)を受賞。その後活動の拠点をセルビアに移し、ヨーロッパとフィリピンを中心に短編映画などを制作。「ブランカとギター弾き」で長編監督デビュー。現在は東京を拠点に活動中。

大西健之プロフィール

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東京都出身。撮影監督。米ロサンゼルスのアートセンター・カレッジ・オブ・デザイン映画学部卒業後、2006年フィリピンに活動拠点を移す。その後アジアを中心にテレビコマーシャル、長編映画、ミュージックビデオ、ドキュメンタリーなどを撮影。

制作に至った経緯

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大西:この数年、イタリア・ヴェネツィア・ビエンナーレの新人支援プロジェクト「ビエンナーレ・カレッジ・シネマ」で、毎年シネマ・ワークショップを主催していて、世界中から集めた脚本から最終的に3組が選ばれます。この選ばれた3組それぞれに15万ユーロの予算が充てがわれます。(2015年当時)2014年9月に、このプロジェクトを共同サポートしているヴェネツィア国際映画祭で、日本(長谷井監督)とポーランドとアメリカの脚本が選ばれました。その後、プロデューサーから僕に話がきたのは9月の半ばくらいです。そこからプリプロを進めていく中、キャスティングで難航したため、僕たちの場合は、他のチームよりも撮影開始が出遅れました。結果的に2015年4月から5月の頭までの21日間撮影し、8月にはもうヴェネツィア側に提出しなくてはいけなかったので、約2カ月程度でポスト作業を終わらせるという過密スケジュールでした。

韓国でのポスト作業

大西:ビエンナーレ・カレッジ・シネマが、釜山国際映画祭と提携している関係で、釜山での上映を条件に、ポスト作業(カラーグレーディングと音)の費用を負担してもらい、韓国で作業を行いました。カラーグレーディングは、約1週間、朝から晩まで缶詰状態での作業でした。監督はその後も音の編集作業で残りました。

VARICAM 35を選んだ理由

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大西:ドキュメンタリー的アプローチというか、リアルなフィリピンを切り取りつつも、映画的な表現も絡めて撮りたいという話になりました。ただ照明の予算とセットアップの時間が課題となっていたので、そこをカメラの感度でカバーするという方向になりました。当初他のカメラでテストした際には、色情報の多さから陰影が綺麗に表現されているものもありましたが、最終的に“映画的ルック”という話になった時、VARICAM 35に決めました。ベース感度がISO5000というのは、大きな武器でしたね。

マニラの夜は日本に比べて暗いので、余計に感度が必要です。でもVARICAM 35は、暗部のノイズ感も嫌な感じは全くなく、黒もすごく馴染んでいました。今回の役者はプロではないので色々な動きを要求できない。そのため、カメラをできる限り絞った状態で、役者の演技に応じてフォーカスをなんとか合わせるという感じでした。主人公が子どもだったので、何回も同じ演技ができないことを踏まえて、できれば2カメ体制でいきたいと提案しましたが、監督が1つのカメラに集中したい、と。

ただ、ストリート封鎖などできないので、カメラが大好きな国民性である現地の人たちが見学に集まってきてしまうんです。それが結構大変で、昼間はできるだけ開放で撮って、野次馬がボケるようにしたり、カメラを隠して撮ったり、工夫して撮影しました(笑)。撮影は、機動性を高めるために手持ちで行ったのですが、カメラが思った以上に重かったので、当時カメラヘッドとレコーダー部分が分離可能というアナウンスに期待していたのですが間に合わず、結果、全カット背負いました(笑)

色と照明に関する日本との感覚の違い

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大西:(日本では)撮影部は露出補正で撮るのが美徳になり、照明部は色かぶりなく自然な光を表現することが美徳になった。それはそれで大事なことなんですが、心揺さぶる画であれば、そのバランスが崩れていてもいいんじゃないか、と。例えば家にある汚れた電球であっても、その光が映画の中で正しく感情的に表現されていればいいんじゃないか、と思うんですよね。日本では何かと「基本がちゃんとしていないと・・・」みたいなことが多いですが、フィリピン人の作品には、感情を光で表現して、失敗を恐れずダイナミックな動きのある画作りに挑戦している感があります。彼らの情熱的な感性が色への感性やカメラの動きに影響を与えているのかもしれません。日本人はあまり照明、感情を表現した色味にあまり興味を持たない感じですが、フィリピン人はそこに関心を抱く点が印象的でした。

この映画で伝えたかったこと:人間賛歌

大西:ライブシーンを撮影した“ホビット・ハウス(※)”では、いまも全員、小人(こびと)の方たちが働いていました。スラムに住む人たちもみんな、明るいんです。勿論大変な部分はあるんでしょうけど、それを凌駕する人間の持つエネルギーみたいなものが充満してるんです。そのエネルギーに監督も当てられてこの作品ができたと思います。途上国をテーマにすると、どうしても同情を誘うものが多いんですが、そうではなく、こういう状態だけど、みんな図太く、逞しく生きてる。(この作品では)そういう意味での人間賛歌を伝えたかったんです。大変な中でも、こんなに頑張って生きて、その上ユーモアもある。だから監督の中でも、有名な役者を使って演技をさせるのではなく、普通の人に演技をしてもらうことによって出るエッセンスみたいなものを表現したかったと思うんですよね。

長谷井監督との出会い

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大西:長谷井監督は元々、ドキュメンタリーや写真を撮っていて、そこからエミール・クリストリッツァ監督の膝下でセリビアに何年間かいたと聞いています。僕が実際に出会ったのは、本作を撮影する3年くらい前に、彼が短編映画の準備でフィリピンに来ていたときです。2010年に僕が撮影監督として携わった長編映画の予告編を、たまたま監督が見たときに、「フィリピンで日本人の映画スタッフがいるんだ」と知ったらしいです。そんな流れで連絡がきて、初めて一緒に仕事をしました。

スクリーンから滲みでる現場の熱

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長谷井:撮影現場はすごく良かったです。本当に良い現場で、良いクルーで。大西くんの撮影チーム以外、他のクルーたちはみんな初めましてだったんですけど、色んな時間を過ごしてきて、ブランカが家族を見つけたように、クルーも家族っぽくなった。そして最終日に、本編のラストカット(ブランカが涙で笑顔を浮かべるショット)を撮ったんです。でも、どうしても作り笑いになる。11歳の女の子だから仕方ないし、僕が求めてる演技ができるわけがないんですよね。「どうする?」ってADと話してたんですが、「任せてよ」って言われて。そしたらADがタガログ語で「今日でお別れだね。本当にいい時間を過ごしたね。でもすぐに恋しくなっちゃうね」ってサイデロに言い始めた。彼女も初めての現場で、ずっと張り詰めてやってきたと思うんですよ。だから自分の中でも溢れるものが出てきたんじゃないでしょうか。そして、クルーの一人が、後ろから歌い始めたんです。その時、カメラは回しっぱなし。その歌を周りのクルーも合唱し出して、踊り始めた。その間も、ADはずっとサイデロに「ありがとう」って言い続けてる。たまに、誰かがくだらないジョークも入れるんですよ。みんなゲラゲラ笑ったら、サイデロも笑っちゃうっていうのを繰り返して、それであの微妙な笑顔が生まれたんですね。僕も本当に、その現場の居心地が良すぎちゃいました。サイデロは泣きながらニコニコしてるし、クルーは歌ってるし踊ってるし、なんて幸せなんだろうと思った。だからずっとカットがかけられなかったですよ(笑)。でもさすがに撮りすぎでしょってくらいまで引っ張っちゃって、そこでようやく「カット!」って言ったらみんなが大拍手!ああいうムードって本当にいいな、楽しかったなって思いますね。そしてその雰囲気ってスクリーンにちゃんと映るんですよ。機械を通しても映る。だからそれをキャプチャーしてくれる機械ってすごく重要ですね。

ドキュメンタリーとフィクションの区別

長谷井:最近ドキュメンタリーとフィクションの区別が分からなくなっているんですよ。ドキュメンタリーも編集してる時点で、もうフィクションですからね。この前出演させていただいた、あるテレビの対談番組で、上がりをチラッと見たら、かなり演出されてるわけですよ。別のところで言ったことを、別のどこかに被せていたり。だからもう、ドキュメンタリーじゃないんですよね。ドキュメンタリーって言葉自体、もう要らないんじゃないの、っていう。だってそれは、フィクションの映画を撮っていたとしても、ある種のドキュメンタリーじゃないですか。だからドキュメンタリーとかフィクションっていうのを、みんなどう定義してんのかな、って。「作りものか、作りものじゃないか」なのか。でもみんな”演技”してるわけですよね。おまわりさんだって、制服を着た瞬間に”演技”してるわけじゃないですか。あれはフィクションなのか、ドキュメンタリーなのかっていうと、そういうカテゴライズの仕方がもう違うと思う。なんかそれってすごく分からないし、いらないと思う。作っている側にいると、そういう疑問がチラつく。それは逆に、僕が説得してもらいたい。これがフィクションで、これがドキュメンタリーなんだって、教えて欲しいですよ(笑)

※ホビット・ハウス

1970年代からマニラにあるライブハウス・レストラン。指輪物語の小人(こびと)をモチーフにリトル・ピープル(小人症の人)の救済目的で作られた。その活動を支援するフィリピンを代表する歌手フレディー・アギラ氏がレギュラーで出演していたことでも有名。店内では小人症の店員が陽気にサービスしてくれる。

“BLANKA”
Official Website: http://www.transformer.co.jp/m/blanka/
全国順次大ヒット公開中
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