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『相棒-劇場版Ⅳ- 首都クライシス 人質は50万人!特命係 最後の決断』ーメイキング テクニカル・エピソードー 03

カラーリスト 佐竹宗一氏 インタビュー

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『相棒-劇場版Ⅳ』で新たな世界観

『相棒』については、劇場版のみを担当させて頂いています。最初の作品である『相棒-劇場版』(2008年公開)ではフィルムでの上映でした。当時はいかにTVの世界観を壊さずに劇場でかけるか?ということをテーマに作りました。しかし単にTVの映像を劇場で流してもつまらないので、劇場版ならではの、重みのある映像にしたいなと思いました。そのときに会田さんから『相棒-劇場版』の全部の撮影データが入った分厚いデータを渡されまして、実はそんなカメラマンの人はいないんですよ。だから、これはとんでもないカメラマンが来ちゃったな、と思いましたね(笑)。それを見るとカット毎の絞り値であるとか、ものすごく細かいことが書いてあるんです。それを元に作業をやってみると、その画から会田さんの意図が凄く伝わって来ました。当時はソニーのF900で8bit/Rec.709のデータで、そのままでも掛けられるような状態でしたが、あえて一端バランスを変えてそれを再構築するという挑戦を提案してみました。会田さんとは初めてだったのですが、お見せした際に気に入って頂けたようで、『相棒』では、1、2作目がQuantel Pablo、前作と今作ではFilmlight社のBaselight EIGHTを使用しています。色の話でいうと特命係の部屋のシーンというのが僕の中で一番のキーでありリファンレンスになっていて、TVではこれまでも一貫してブルー/グレーな感じで、劇場版でも1、2、3作目はそのトーンを継承してきました。しかし最新作ではこれまでの世界観からは少し離れたい、という意図がわかったので、これまでとは違って、例えば顔色をブルーの補色であるオレンジ系にするなど、色でコントラストを付けるという部分が今までと大きく違う所です。TVシリーズは普通にRec.709で撮られていて、劇場版になるとLogで撮ったりしていました。劇場版でもTVシリーズのトーンに合わせるようなところがあったのですが、今回は素材を見ても、これまで仕上げていた方向とは違う方が絶対合うだろうなと思いましたし、より映画的な表現になったと思います。

グリマーでコントラスト強調をより効果的に

これまで撮影でディフュージョン系のフィルターというのは使われなかったと思うのですが、今回は全てのカットでグリマーグラスが使用されているので、画に柔らかさがあります。それによりカラーグレーディングするときにも黒を締め込む時の幅があるのです。それがないと黒もつぶれて、白もクリップしているような状態になるのですが、グリマーが入り、暗部と中間部にディフュージョンがかかったおかげで、暗部とハイライトに余力ができ、それで中間部を思い切って延ばすことができるのです。これによりコントラストを付けていくような画の場合にはとても効果的だと思います。順目より逆目の光源を背負っているような画の場合にもっとも有効ですね。

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カラーワークフローの将来予想と、HDRやHFR、VRの未来について

この2年間で、HDRのマスタリングプロジェクトをいくつか行いました。最初のプロジェクトは、2015年のNAB用に、4K/60Pで制作した、ソニーの4K/HDRモニター、BVM-X300のHDRリールです。その時はBaselight ONEを使用しました。2時間半ほどの元素材をタイムラインに並べてグレーディングを行った、非常に時間のかかるプロジェクトでした。
HDRのテクノロジーは、クリエイティビティと同様に、ディスプレイの可能性も広げてくれます。しかし、現在はまだ視聴方法の一つのオプションに過ぎません。最終的にはSDRディスプレイがHDRディスプレイにすべて替わるでしょうし、恐らく、私たちもHDRディスプレイで作業の全てを行うことになるのではないでしょうか。
HDRは、HFRやVRと連動して良いケミストリーを生むと思います。そうした技術を用いて、目の前で実際に起こっているような、非常にリアルな映像を作ることができるでしょう。もしかすると、ストーリーによっては映画として“映画っぽくない部分”もあるかもしれませんが、面白いものになることは間違いないと思います。

2Kグレーディング

いま映画作品ではすでに撮影素材は4Kというのは当たり前になっていて、僕もほとんど4K素材しか扱っていません。そう言う意味では久しぶりの2K素材だったのですが、実は4K素材を持ち込まれても、グレーディング作業ではむしろその解像感を消す方向、つまり画を汚すことのほうが多いのです。なぜかとうと、4Kでパキパキに見えているのが、物語を描くのに適さないという意見が多いのです。シワが見えすぎるとか生々しいとか、「クリーンなキレイさ」と「映像の美しさ」の違いというか、皆さんそういうところを感じる方が多いのではないのでしょうか?最近はフィルム撮影もまた増えてきてますが、デジタル撮影の場合、いまや昔のフィルム現像の工程が、まさにこのカラーグレーディング作業の位置付けになっていますね。

<特別掲載:Filmlight社インタビュー>(2017年1月)

Baselight PLUS package

—東映と東映デジタルラボ

東映は1951年から長編映画、テレビ番組、アニメーションといったものの配給と制作を行ってきました。東京と京都に自社の制作部とスタジオを所有しており、映画やテレビ、CMに対し、広い範囲でサービスを提供しています。
東映デジタルラボ(TDL)は、練馬区大泉学園に位置する東映東京撮影所の東映デジタルセンターの中にあります。TDLは2010年に設立し、DI(Digital Intermediate)やテレビ番組のオンラインフィニッシング、音響サービスといったデジタルポストプロダクションのサービスを提供してきました。

—Baselightはどのようにワークフローにフィットしていますか?そしてどのように設備に影響していますか?施設内で、他の部署と連携しているプロジェクトはありますか?

現在、私たちの施設にはBaselight Xが一つと、Baselight ONEが二つあります。これらは全て、クラウドネットワークにてプロジェクトを共有するためにFLUX Storeに繋がっています。Baselight Xは主に、長編映画のグレーディングに使われ、またフィニッシングの段階でも使われています。
カラーグレーディングでは、色やイメージを向上させるだけではなく、編集やクレジットロールを修正したり、VFXのショットや合成(コンポジット)を調整したりもします。デイリーやテレビ番組、HDマスターは、Baselight ONEを使用します。
もちろん、他のVFXやソフトウェアを使用したほうが、良い点がたくさんあるかもしれません。そのような場合は他のアプリケーションで作業することもあります。しかしながら、私はなるべく全ての作業をBaselightでできるようにしています。その方がクライアントの急な変更や微調整に対応できるからです。
Baselightは、複数の画面分割、様々なスピードの変更、クレジットの入れ込みといった複雑な編集にとてもよく対応してくれます。ですので、カラリストもプロジェクトのファイナライズに、Baselightを用いて編集のオペレーションを提供できるのです。

—カラリストとしてどのようにスタートしたのですか?

私のキャリアは、2000年代の初め、テレビCMやMVのカメラアシスタントから始まりました。カメラアシスタントとして、DP(撮影監督)とともにテレシネによく従事していまして、そこでいつもカラリストの作業に魅了されていました。特に、彼らが作る「ルック」に関してです。
2005年にTDLの親会社である東映デジタルテックに入社し、程なく元々カラータイマーをしていたカラリストの方のアシスタントとして従事しました。彼は、テレシネのカラリストとして始める前に、劇映画のカラータイマーとして長く経験を積んでいましたので、その彼からフィルム作業から現在のテレシネまでを十分に学ぶことができたことは非常にラッキーでした。
カラリストとして始めた頃は、HDマスターのテレシネや、旧作映画のデジタルリマスタリングといった作業がメインでした。日本の映画業界がワークフローをデジタルに移行している時、新しいデジタルカラーグレーディングのシステムを学ぶチャンス、そして使えるチャンスが与えられ、DIのカラーグレーダーとして本格的に従事し始めたのです。

—あなたは長編映画の(カラリストの)スペシャリストですよね?どうしてそのように至ったのでしょうか?

ほとんどの作品において、私はクライアントが来る前に、彼らに良いスタートポイントを提供できるよう、予め映画全体のバランスを調整し、「ルック」を提示します。必要であれば、事前にフェイスリフトやビネット(輪郭調整)、また空の色置換といったものも修正します。こうした事前作業が、クライアントが初日からストーリーテリングに集中できる手助けになっているのだと思います。
このアプローチが、今まで多くのクライアントと良い関係を築けていけた要因だと思います。

—カラーグレーディングをするにあたって、簡単なプロジェクトはありますか

基本的にはグレーディングをするのに簡単なプロジェクトはないと思います。それに、それぞれのプロジェクトには、独特のストーリーとテイストがあります。予算に関わらず、シネマトグラファーから求められるものは様々です。彼らを満足させることはいつもチャレンジです。また、時々、すでにショットがパーフェクトで、ブラッシュアップそのものが必要ないこともあります

—Baselightの機能で、クライアントに一番喜ばれているものは何ですか?

スピードに関してはとても喜ばれていると思います。Baselightでは、結果を見るのに長い時間待つということはありません。時々、グレーディングスピードに関する賞賛を受けますが、Baselightは、空の色置換やフェイスリフトといった、トラッキングやキーイングと同じようなマルチプルシェイプを伴ったレイヤーを要する複雑なタスクに対しても、素早く対応できる十分な力があります。
また、違うショットを並べて見ることや、一斉に複数のシーンをリアルタイムで再生することもできます。それによって、その場にいる全員が素早い判断をすることができ、作業が楽しくなるということもしばしばあります。

Baselight with three UI monitors and Blackboard 2

—Baselightの最も好きな点は何ですか?

適応力と分かりやすいカラーマネージメントです。カラーマネージメントはDIワークフローの中でも非常に重要な部分で、すごく扱いにくいところでもあります。しかしBaselightはどんなカラースペースでも対応でき、そのColour Space Journeyは進行中の作業の理解を助け、自分がいま作業のどの段階にいるのかを示してくれます。どんな広範囲の技術的な需要も簡単に満たしてくれるTruelight Colour Spacesは、この市場の中でもベストなカラーマネージメントシステムだと思います。

人間工学のツールセットを伴い、Baselightは、生産力とクリエイティブの両方において満足させてくれる唯一のシステムだと思います。

—マルチプルレイヤーを伴う複雑なグレーディングをどう扱っていますか?

私にとって、コンポジッティングはカラーグレーディングの中でも非常に重要な部分です。例えば、空の補正などをコンポジッティングする時、しばしば、複数のものを混ぜ、ミックスをし、必要であればアニメーションを加えます。
Baselightは質のいいシェイプツールがありますが、マスクが複雑になってきた時、私はロトスコープ作業を自社のロトスコープアーティストに回しています。そして改めて外部マスクとしてBaselightに戻します。
また、VFXショットの調整のために大量のマスク素材を受け取ることがあり、時にはBaselightの”Stack”が100レイヤー近くに及ぶことがあります。
多くのメーカーは無限にレイヤーを扱えると謳っていますが、中には現実的に20レイヤー程度しか扱えないハイエンドシステムもあります。
Baselightは複数の4K素材を1カットの中でブレンドしながら扱うような作業ができる唯一のシステムです。

—カラリストになりたい人たちに向けて、何かアドバイスを。

「シネマトグラファーにとって良いアドバイザーになれ!」ということですね。彼らの話をしっかりと注意深く聞き、彼らのアイディアやビジョンを良く理解するのです。カラリストは、自分が使う道具をよく知っておくこと、そしてクリエイティブなアイディアをイメージに具現化するスキルが不可欠です。
常にどのようにストーリーを伝えるかを考え、観ている人たちを旅路に連れて行ってあげるのです。アートとサイエンスの知識を広げてください。そして、いくつか趣味を持ち、人生を楽しみ、学べることは何でも学んでください。

—エンターテインメントの業界で、この道に影響を与えた映画はありますか?

一つに絞ることはできませんが、ウォン・カーウァイ監督、リュック・ベッソン監督、ガイ・リッチー監督、クエンティン・タランティーノ監督、そしてトニー・スコット監督の作品には非常に影響を受けました。10代の頃に彼らの映画をたくさん観ました。

—どこでインスピレーションを受けますか?

写真や自然です。マイケル・ケンナ氏、ミラー・モブレー氏、森山大道氏は私のお気に入りの写真家です。しばしば彼らの作品からインスピレーションを受けています。

—Baselightのグレーディングシステムで、クライアントに売り込むとしたら、何を伝えますか?トップ3を教えてください。

スピード、クリエイティブツールセット、最先端のカラーマネージメントの過程です。

—この仕事で一番好きな部分は?

カラーグレーディングはとても面白い仕事です。技術者とクリエイターの両方に同時にならなければいけないですから。今まで学んできたテクニックを用いて、クリエイティブなアイディアを目に見えるイメージする、非常に充実感のある仕事です。

ー嫌いな部分は?

一日中、窓もない暗い室内に座っていなければならないことです。

—ストレス解消法は?

家族と過ごす時間、そして子供たちの成長を見ることは、非常に気持ちを落ち着けれくれます。また、帰宅する時に、新鮮な空気を思い切り吸いながらバイクで通勤することも好きです。

ですが正直に言いますと、あまり仕事でストレスは感じていません。ただ、この仕事をとても楽しんでいるのです。

Profile:佐竹宗一/Soichi SATAKE
シニアカラリスト。2004年東映ラボ・テック(株)入社。テレシネカラーリストを経て、2006年頃からDIカラーリストへ。2010年、東映デジタルセンター設立時に東映デジタルラボへ移籍。代表作は「相棒-劇場版」全シリーズを始め、「バトル・ロワイヤル3D」(2010年 監督:深作欣ニ)、「つやのよる」(2013年 監督:行定勲)、「藁の楯」(2013年 監督:三池崇司)など多数。