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『相棒-劇場版Ⅳ- 首都クライシス 人質は50万人!特命係 最後の決断』ーメイキング テクニカル・エピソードー 02

コントラスト・階調重視の作風への転換で、TVシリーズとは異なる、新たな世界観を演出

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今回の撮影はARRI AMIRA2台を中心に2Kでの撮影仕上げで、流行の4K、8Kといった解像度よりも、よりコントラストを意識した階調重視の画づくりが行われた。それを活かすための照明プランもこれまでの「相棒」シリーズの仕様から大きく変更されている。また「相棒」独特の狭い室内でのミニジブやステディカムでのムービングカメラや、映画ならではのスケール感を演出するクレーンワークも多用されるため、PMW-F55、ALEAX mini、GoProHD HEROなど多彩で機動性を重視したカメラが使用されている。さらに近年、世界の映画界で流行にもなっているTiffen社のグリマーグラス(Glimmer Glass)を全編で使用。グラマーグラスフィルターは、コントラスト重視のフィルム撮影時代には広く使用されていたが、ビデオベースになった近年のデジタル撮影では、撮像板が小さいことで被写界深度が深くなるため、フィルター内の粒子が映ってしまうなどの理由で使われなくなった。しかし近年の大判センサーカメラの登場により、コントラスト重視の撮影の際にデジタル撮影でも多く使用されるようになってきている。番手(グレード)によって、その濃度が段階的に設定出来るため、スキントーンなどの表現に多く用いられている。ただ、一般的な35mmサイズのスチルカメラでは、これに該当するフィルターはなく、強いて言えば「ブラックミスト No.1」(ケンコー)などのフィルターに該当するが、見た目は異なる。
ポストプロダクション作業ではカラーグレーディング時の仕上げにも、デジタル撮影でありながらよりルックや世界観を重視する画風に仕上げられている。

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撮影監督 会田正裕氏 インタビュー

あえて2K、階調を活かした画づくり

『相棒』は劇場版では今作で4作目になります。1作目、2作目はまだテレビの延長線上で撮った感じでしたが、3作目は、ちょうどソニーのPMW-F55が出て、「4K」という言葉が出始めたころでもあり、テレビ朝日も4Kプロジェクターを導入した「EXシアター」を作ったこともあり、邦画初の4K撮影/仕上げというところを目指しました。
これまで『相棒』は常に新しいことをやってきた経緯があり、周囲のスタッフからも今回は何をするのか?という質問をよく聞かれたのですが、4作目の今回は古い回想シーンも多く、VFXも多用しているので、4K撮影が当たり前になっている中で、今回は2Kで階調を活かした撮影をやってみようと思いました。テレビから始まった「相棒」ですが、今回は映画らしい世界観で取り組む、ということで、解像度よりも階調を大切にした画づくりを一番大きなテーマとしました。カメラ機材は今回、ARRIのAMIRAとALEXA miniを中心に撮影しています。これまでARRIが言ってきた「解像度よりも階調」であることと、また30年前のカールツァイスのフィルム時代のオールドレンズを多用し、ファーストシリーズのスーパースピード シリーズ1.3などのシリーズを選択して、階調豊かな映像を一番のコンセプトとして撮ってみようと思いました。
カメラは、もちろんALEXA XTなどのスタンダードなシネマカメラの選択もありましたが、今回は2Kで撮ることを最初に決めており、それに加えて機動力が欲しかった。この作品の撮影の最大の山場として、大通りでの世界的なスポーツ大会の凱旋パレードシーンがあり、その際のカメラ台数や取り回しを考えても、三脚や特機の周辺機材も含めて、なるべくコンパクトな機材にしたいと思い、最終的にはARRI AMIRA×2台、ALEXA mini ×1台の3台をメインに撮影しています。

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自然体からの伝統的なカメラワーク

『相棒』と言えば、動きのあるカメラワークがつきものと言われてきましたが、僕自身、今はそれをあまり意識しなくなりました。あのカメラワークの成り立ちは“フォローワーク”というか、俳優の位置が変わって行く中で、それをフォローしながら位置が変わっても常に見易いアングルをキープしたいという発想から生まれています。ハリウッド風に言えば“マスターショット”のようなもので、通常マスターショットを撮るとなると、クレーンを使ったりして広く画をとったりしないとならないのですが、日本のTVドラマの中ではそうした機材は常駐できないので、ジブやレールドリーを上手く組み合わせることで、うまく撮影できないか?という中から徐々に『相棒』の世界観のようなものが出て来きました。それが一時期話題になって、さらにいわゆる『相棒』らしさと言われる青い世界観にしてみたり、長廻しにしてみたりということを試みた時期はありました。しかし15年以上もやってきてこれらが定着してきたことで、すでにこう撮らなきゃ行けない、こういう色じゃないとダメだ、というのも無くなって来たと思っています。僕自身は、逆にいま自由だなと感じていて、このシーンはこうやって撮りたいというのをそのまま撮ってますね。ただマスターショットの撮り方という概念は、この『相棒』にはずっとあって、マスターショットをどう撮れるか?というのを重要視して機材選択もしています。

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洒落た「エスタブリッシング・ショット」

引き画ではない「エスタブリッシング・ショット」をどうやって撮ればカッコ良くて効果的なのかな? と考えたとき、例えば主役をぐるっとカメラが一周することで、セットの紹介をしなくても観てる側に「ああ、こういう場所なんだな」とか「相手役があそこの配置にいるんだな」ということが分かります。単純に状況を紹介するためだけで引き画を出すというのは、ハリウッドでもすでに古い手法ですし、あまりしていないですよね。さりげなく全部を紹介しながら、それがマスターショットでもあるわけです。またずっと役者を追っかけていって、パッと振り返るとそれがあたかもカットが切り替わっているように見えるなどの効果もあります。今作品の橋本一監督も映画好きで、そういった映画手法をよくご存知で、撮影現場で要求されるカット割もそうした洒落たカットが多かったりもするので、それに応えられ、かつ、いかにも映画的な大胆でダイナミックな撮影を意識しました。

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面光源のキーライト+オールドレンズ+グリマーグラス

今回メインで使用したカールツァイスのファーストレンズは、映画の歴史の中でそれほど古いレンズではないのですが、コーティングはされているものの今よりフレアが出やすい傾向にあり、そういった性能も効果的に使いたかったので採用しました。フィルム時代のレンズということで、コントラスト重視で撮ることが前提で作られており、コントラストがしっかりしていることも選んだ理由です。カールツァイスのレンズは昔からコントラスト重視で撮ることを意識していましたし、MTFを積極的に公開したのもカールツァイスです。白黒の時代から、明暗比で立体感を出そうというのが基本のレンズコンセプトだったと思います。また過去には、画素数が少ないときのデジカメもコントラストで撮れば画は成立しますし、雰囲気のいい画が撮れるというような技術もありました。
また階調を基本に描くことを考えた時に、これまでの『相棒』からはライティングプランを大幅に見直ししています。人物に対してキーライトをほぼ真横からのサイド寄りにして、かなり大きな面光源にして、さらに少しずつ人物の正面に対して、キーライトの面光源から前方の弱い光を伸ばしていくことで、ライトが当たる顔の反対側に光が伸びて回り込むようなキーライトをライティング設計のベースに考えました。これはコントラストを強めながらも、被写体に広い光源でグラデーションをつくることで、より効果を出したかったのです。さらに暗部が必要であればフィルライトはカラーライトで補足するなど、少ないライトでグラデーションを活かすライティングをプランニングしました。そのため映像素材自体は非常にハイコントラストな光源を使った映像になっています。
そこに今回初めてグリマーグラスのフィルターを全面的に用いることで、そのハイコントラストに対して暗部をリフトしていくと、カラーグレーディングの際に黒の部分がベタっと潰れてしまいます。そこにグリマーグラスを入れることでその潰れを抑えられ少し黒を浮かすことで、さらに表現域が拡がるのではないか?ということを想定して使用しました。またグリマーグラスは番手(=グレード)によって、光源のにじみがすごくキレイで、にじみの変化が少ないので非常に使いやすいのです。番手を変える( 1/8、1/4、1/2、1、2、3、4、5) =黒の浮きをコントロールするといった意味で使っています。
面白かったのはグリマーグラスの表面が、見た目で汚れているように見えますから、撮影現場で俳優さんがカメラを見て「このレンズで大丈夫?汚れてるんじゃないの?」と心配してくれた方もいましたね(笑)。

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TVシリーズから拡張したシネマワークフロー

『相棒』のTVシリーズは、2015年の「season14」からカメラも大判センサー機のCanon EOS C300 MarkⅡに変更しています。それに伴い奥行き等も出したいという狙いでライティングも大きく変更しました。面光源を基調としたコントラスト・ライティングによって、大判センサーの、深度がただ浅いというだけではなく、例えば2ショットでパンフォーカスのときでも同じような雰囲気が得られるような照明です。手間はかかりますが、コントラストが強いがグラデーションでしっかり作る、もしくは固い照明なんだけど光の質は徹底的に柔らかくするといった工夫をしています。ある意味、映画っぽい演出にしているわけですが、劇場版ではそれをさらにブラッシュアップしてTVシリーズではやれなかったことを実現しました。TVではどうしても暗い部分が使いづらいのですが、本当は暗い部分をもっと活かすことで暗い中での没入感を見る側に与えるなど(演出的な)表現域がさらに拡がります。ただし『相棒』というコンテンツでは、見えないほどの暗い映像はふさわしくないので、そこも考慮したバランスの上で映画作品として表現出来る範囲を考えました。

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カラーグレーディングでの新たな試み

今回はカラーリストの佐竹さんに、仕上げのカラーグレーディングを最初からほとんどの部分をお任せしています。グリマーの効果についても事前に相談にのって頂きました。いままでは自分がそのカットに対して明暗を狙って作って来たのですが、今回は、例えば暗部の表現において、明るいままで見ても、暗く締めても成立するように、素材自体を明るめに撮影しておいて、それをカラーグレーディング時にカラーリストがどのように表現をしてくれるのか?というのを楽しみながらポスト作業を行いました。一度自分ではない視点で作ってもらったところから、この作品にどういう表現が一番ふさわしいのか?を試行錯誤しながら仕上げていく工程は、地味ではありますが一番大きな変化(=進化)だったと思います。

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海外での撮影経験から生まれた技法

2014年の夏にフランスのパリで撮影した映画『王妃の館』(2015年公開)では、ベルサイユ宮殿を始めパリの建物の中で撮影した際に、ほとんどの光がろうそくの炎など、サイドにあるなかで、日本でよくやっているトップ目のキーライトをどう作るか?という点で非常に悩みました。その後、2014年の後半からトルコと日本でロケを行った映画『海難1890』(2015年公開)という作品に撮影として参加したのですが、その時の撮影監督が、現在もフランスで活躍されている永田鉄男さんでした。もちろん世界的評価も高い有名な方ですが、彼との仕事から照明設計の点で非常に多くを勉強させて頂きました。徹底的にソフトなサイドからのキーライトの作り方など、得るものが大きかったのです。『相棒』ではもちろんその技法をすべて真似ている訳ではありません。日本の作品でしかもTVシリーズの規模では、スケジュールや撮影スケールの問題もあって、そこまで丁寧に出来ないですし、規模的にも予算とスケジュールに余裕のある永田さんの現場のようなことをそのまま真似することは出来ないですが、照明の考え方とか、あの経験から多くのヒントを頂きました。そこからの応用でなんとか新しい『相棒』スタイルが生み出せないか?という試行錯誤から、昨年からのシリーズでは、サイドのキーライトの演出法を大きく変更しています。照明はもちろん好みもあって、日本風のトップのキーライトでも良いモノは沢山ありますが、僕は洋画が昔から好きだったこともあり、そうした影響も『相棒』という作品に出ていると思います。

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スタッフへの信頼が次なる進展を生み出す

日本の撮影における難しい点として、大きなセッティングでの撮影を1発で撮らなければいけない状況があります。役者や現場のスケジュール調整が難しいということもありますが、撮影において技術的な失敗が理由でもう一回再撮する、というのはまずあり得ません。厳しい条件下において、いかに設計通りの撮影プランを上手く成立させるか?ということが重要です。そういう点では、今回はかなりの部分で自分が想定した通りの撮影ができたことでは、非常に自分自身の自信に繋がりました。しかしそれを可能にしてくれたのはスタッフの力が大きかった。規模が大きい作品なので自分だけでは出来ないことばかりです。そういう点では今回も多くの人に恵まれましたね。仕上がりのイメージだけは僕がしっかりと持っていて、照明やポスト作業にしても、各現場のスタッフの力を信頼して、皆の力をたっぷりとお借りしたことで、僕自身はとてもリラックスして制作するが出来ました。結果的には自分が当初想定した以上のことがいっぱい起きているので、なんでも自分で決めてやらなくて良かったなと(笑)思っています。

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Profile:会田正裕/Masahiro AIDA
「相棒」シリーズのカメラマンとして、シリーズ開始当初から撮影に関わり、日本国内でも早期から撮影監督システムによる撮影に取り組んできた。またファイルベース収録、DIワークフロー、3D、4K撮影、HDR(High Dynamic Range)仕上げなどの先端撮影技術の研究・実戦にも積極的に取り組んできた。
映画作品の代表作:「相棒-劇場版」全シリーズ、「少年H」(2012年、監督:降旗康男)、「王妃の館」(2015年、監督:橋本一)、「海難1890」(2015年、監督:田中光敏)、「TAP」(2017年公開予定、監督:水谷豊)等。アップサイド所属。