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パナビジョン社訪問 ラージフォーマット時代の映画制作の展望

石川 幸宏 / Yukihiro ISHIKAWA 〈 HOTSHOT 〉

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Interview パナビジョン社エンジニア 貞廣春樹 / Haluki SADAHIRO
Director of New Product Development and Electronics Engineering 〉 

WRITER 石川 幸宏 / Yukihiro ISHIKAWA HOTSHOT
PHOTO & VIDEO 田村 雄介 / Yusuke TAMURA

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パナビジョン 本社エントランス
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数年ぶりに、LA・ウッドランドヒルズにある、パナビジョン本社を訪れた。
この半世紀、ハリウッドの映画撮影を牽引してきたパナビジョン社。
ユニークなのは、なぜか昔から日系人スタッフがこの会社のキーマンとなっている。
日系人として最多となる5つの米アカデミー賞を受賞をされた故 宮城島 卓夫さん(Tak MIYAGISHIMA /19282011)は、 日系アメリカ人スタッフとして活躍、パナビジョン社を代表する映画関係のエンジニアとしても後世に名を残した偉人だ。
そして映画のエンドロールに出てくる、あのパナビジョンのロゴをデザインをした人物としても有名であり、その偉業は本社内にあるメインシアターには彼の名前がついていることからも明らかだ。
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TAK MIYAGISHIMA(宮城島卓夫)さんの記念コーナー

現在、日系のスタッフとして同社に在籍する貞廣春樹氏も今のパナビジョン社には欠かせないキーマンだ。
日本生まれながら幼少期からアメリカ育ちという経歴と、日本の放送用カメラメーカー、池上通信機やイメージセンサーの会社でのエンジニア経験を経て、2011年からパナビジョンに入社。
以後、プロダクトマネージメント、電気関係、カメラ・レンズ関係など色々な技術的なプロジェクトに携わっている。
今年のCine Gear Expoでも注目を浴びた、DXL2 8Kカメラや可変NDフィルターの開発にも彼が関わっている。DXL2についてや、パナビジョン社のいまとこれからについて語って頂いた。

ユーザーとの距離が近いアドバンテージ

パナビジョンという企業は、映画業界の中でも特殊な立ち位置にいる会社で、ビジネスの本業が機材レンタルなので、メーカーに比べてもユーザーとの関係がかなり近いのです。
僕の部署は製品企画でもあり、エンジニアリングの部門でもあるので、お客様から直接カメラやレンズはこうあるべきだということをかなり親密に聞くことができ、そのフィードバックをすぐに製品開発やサービスに生かすことができるので、とても面白く仕事をしています。
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貞廣春樹 / Haluki SADAHIRO
Panavision / Director of New Product Development and Electronics Engineering

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DXL2への進化

DXLは、REDカメラを映画撮影の現場に適正化するという目的で開発されました。
パナビジョンに寄せられてきた多くのフィードバックから、元々のREDカメラの仕様では満たせなかった部分を補い、映画撮影の現場で問題なく使える仕様にしたものです。
そしてDXL2への進化は、「RED ビスタビジョン」と言われるRED DragonVVのセンサーを、新しいMonstro / 8Kセンサーに変更しました。
MonstroセンサーはRED特有の味でもあり、一方で一部のユーザーからは懸念されていたノイズの部分を補える特性があります。
このセンサーの優れたパフォーマンスが確認できたことから、これを搭載してDXL2として発表しました。
画質的には、従来からのREDっぽかったカラーの特性に対して「LightIron Color 2」という新しいLUTを入れています。
これは昔ながらのフィルムライクな絵作りができるようなLUTです。
初代DXLにも「LightIronColor1」というLUTが搭載されていましたが、Monstroセンサーに代わってノイズ特性も良くなったので、それに伴う全体的なアップグレードを行っています。
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Panavision DXL 2 カメラ

またアクセサリー類のアップデートとして、レンズコントロールの制御機構:MDRをカメラに内蔵しました。これによりパナビジョン社製だけでなく、ARRIWCU4も使用可能です。弊社の内部モーターで動くPrimo70PrimoXシリーズのレンズに対応だけでなく従来の外部モーターで動くレンズにも使用できます。

さらにワークフロー関係のアップデートでは、オーディオ面でカメラ内でのスクラッチトラック(リファレンス用の仮音声)収録を、有線ではなく無線で収録できるように、Comtek社のオーディオレシーバーをカメラに内蔵して収録できるようになりました。

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Panavision LCND

OTT制作増による市場の変化

いまDXLカメラが使われている現場は、劇映画(FEATURE FILM)が多いですが、このところOTT(Over The Top)が増えています。今の流行として、Netflix、Amazon Prime、Disney、Apple TVなどのOTT関係の映像が非常にクオリティを上げてきており、これまでのTVコンテンツと差別化するためにも一段上のシネマ的な映像作りが求められ、DXLや弊社のレンズが使われる場面が増えています。Netflixなどはオリジナルコンテンツに力を入れていて、他のコンテンツホルダーに比べて、そのオリジナリティとしてクオリティを出したいのだと思います。

正確には言えませんがDXLの現在の保有台数は100台近くありますが、人気があってほとんどいつも出払っている状態です。

その際に我々がカメラメーカーに求めるのは、メンテナンスのしやすさです。DXLの元となるREDカメラの長所は、モジュール単位の構成になっている点で、とてもレンタルフレンドリーにできています。どこかが壊れてもメンテナンスについては、そのモジュールを取り替えればいいだけなのでで、いちいちメーカーに戻す必要性はほとんどありません。メーカーに送り返すとなると、レンタル業務にとって致命的なダウンタイムが出来てしまいます。ただしREDの場合、たとえセンサーの不具合などカメラ本体が修理になったとしても、弊社から工場も近い(アーバイン地区)ので便利ですけどね。

 

ラージフォーマットは一つのツール

スーパー35mmの時代から、いずれは35mmフルサイズなどのラージフォーマット時代が来るというのは 、すでに6年前には見えていました。当時はデジタルシネマカメラもスーパー35mmサイズが主流でしたが、どれも同じサイズのカメラだと、やはりどうしても作品的には同じように見えてくるので、フィルムメーカーも他者の差別化をする必要が出てきます。そのために自分のLOOKを作るわけですが、その差別化の一つの要素としてラージフォーマットがあるわけです。実際にスーパー35mmからフルサイズになれば、使うレンズも長くなるため被写界深度が浅くなり、50mmをつけた時の視野角も広くなります。50mmは人間の拡大率とほぼ同じなので、これ実はこの流れはかつてフィルム時代から行われていました。さらに元々は35mmフルサイズのスチルカメラやレンズを作ってきた多くのカメラメーカーにとっては、すでにフルサイズの技術と経験があったので、この進化にそれほど大きな障壁はなかったと思います。それもあってここにきて一気にラージフォーマット化が進んだと思います。アナモフィックレンズも同じで、ラージフォーマットをさらに広げた差別化の方法の一つでしょう。がラージフォーマットになれば臨場感もさらに増してくるわけです。

パナビジョンは、フィルムの時代からラージフォーマットのレンズも作ってますし、アナモフィックレンズや65mmフィルムのレンズについてもノウハウがあります。またレンタルして長年使い続けるレンズに対して、性能を維持するためのメンテナンス技術も、60年間の歴史として昔から持っています。これからしばらくはラージフォーマットが主流の時代が続くのではないか?と考えています。
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映画「STARWARS」シリーズ専用に使われている、PANAFLEXがちょうどメンテナンス中。
写真は1号機。名称は、MILLENNIUM FALCONちなみに2号機は、DEATH STAR

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広いレンズ調整コーナー


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一番広い試写室、
TAK MIYAGISHIMA THEATER

日本の映画作品について

日本の映画作品も結構見てますが、トラディショナルな黒澤作品などに影響を受けた撮影方法で、丁寧に撮っている作品もあり、その点は今も海外でも評価されています。一方で、いまハリウッドで若者受けする作品は、展開の早いスピード感のある編集で絵もキラキラと派手な作品で、しかも小さな画面で見ることを前提に作られています。今の若い人はそういう作品を見て影響を受けている中で、日本の作品も撮り方のスタイルとして若い人たちにアピールできる作品ももっと出てきても良いのかなとも思います。

あと、改善して欲しいと感じるのは、やはり照明とカラコレですね。たまに人肌がグリーンになっている作品などを見かけます。そこにはもう少し力を入れて欲しいと思いますね。

End To End サービス

パナビジョンがよく語っているのは「End to End サービス」というキーワードです。要は収録からデリバリーまでのサービスを全て面倒見ますよ、ということですが、そこで重要になってくるのがワークフローです。しかし、ワークフローといっても作品や関わる会社によっても色々なjケースがあります。我々は、その中でも一番得意な部分でもある、プロダクション(撮影)からポストプロダクション(後処理)へのワークフロー部分に力を入れています。これまで上手く出来ていなかった、プロダクションのデータをそのままシームレスにポストプロダクションに渡すということがますます重要になってくるので、そこがこれからの課題だと思います。またポストプロダクションでのVFXやCGの作業が多くなる作品が増えると、予算もそちらが大きくなって、どうしても意見や要求が強くなります。これからはポストプロダクションへ有効なデータを、いかに効率的に早く渡せるかがワークフローとしては重要になってくるでしょう。

ただし重要なのは、やはり映画というのは芸術作品です。ワークフローを重んじたからといって、シネマトグラファーの芸術性が失われてはいけないと思うのです。そこは尊重しつつも、ワークフローを向上させるが、我々の仕事であり責任でもあると思っています。
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Panavision
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