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Dolby Cinemaとは何か?

- 「轢き逃げ-最高で最悪の日-」 邦画初のDolby CinemaTM(ドルビーシネマ)作品 -

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日本映画初のドルビーシネマ対応作品として、5月10日全国公開の水谷豊監督・脚本作品「轢き逃げ-最高の最悪な日-」 が公開される。これに先立ち、ドルビーシネマ用カラーグレーディング、マスタリング作業が、3月某日ハリウッドにあるドルビー社の施設Vineシアターで行われた。
ドルビーでは、「ドラマチックな映像『Dolby VisionTM(ドルビービジョン)』」、「心揺さぶるオーディオ『Dolby Atmos®(ドルビーアトモス)』」、「映画に没入するために最適化されたシアターデザイン」の3要素が揃ったものをドルビーシネマと呼んでいる。今回すでに劇場公開用に編集された作品をドルビーシネマ対応にカラーグレーディング(色調整)およびマスタリング作業を行う。
ドルビーシネマ専用施設であるVineシアターは、Hollywood通りとVine通りの交差点付近という、まさにハリウッドのど真ん中に位置し、その外観は古い潰れた映画館そのままだが、中に入ると最新のドルビーシネマ設備が完備されたシアターになっている。

最先端の劇場システム、ドルビーシネマとは…

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米ドルビーラボラトリーズ社が開発した、映像鑑賞のための音響(ドルビーアトモス)と映像(ドルビービジョン)の2つの最新テクノロジーと、映像鑑賞に最適化されたインテリア設計がパッケージングされた、最新型シアターが「ドルビーシネマ」だ。
ドルビーシネマの大きな特徴は3つある。音響と映像のテクノロジーについては、すでに国内の劇場でも採用されている、最新の立体音響を実現する
“ドルビーアトモス”(音響)と、黒の暗部から白のハイライトまでの、人間の目に見える明るさの階調や色域をリアルに再現するHDR(ハイダイナミックレンジ)を実現する“ドルビービジョン”(映像)、さらに映画に没入するために最適化された壁や座席などの劇場インテリア設計の3要素が揃ったシアターを、単にドルビーアトモス採用の劇場とは区別して「ドルビーシネマ」としている。

ドルビーアトモスとドルビービジョン

まず第一の特徴は、立体音響システム「ドルビーアトモス」がもたらす表現力だ。スピーカーの数や配置に制約を受けない、“オブジェクト”と呼ばれる、3D空間内に最大128個の音像を配置できる立体音響技術。これまでの5.1chなどのチャンネル方式とは違い、ドルビーシネマシアターにはスクリーン背面、壁だけでなく天井部にもスピーカーを配置し、最大で64chまで個別に出力できる。そのため音像の動きなどを微細に調整でき、爆音やノイズからわずかな静寂音、そして完全無音に至るまで、その繊細な音像表現は作品への没入感を一気に高めてくれる。例えば街頭の騒音から、演技者の内面を表現する無音の静寂まで、これまでとは違った次元の映像演出が可能になる。
スピーカーの個数は各々のシアターサイズによって異なるが、従来の5.1chや7.1chとの互換性も確保しつつ、制作者はディスクリート音源(オブジェクト)をシアター内のどの位置にでも配置することができる。
そして、もう一つ大きな効果をもたらすのが、最新のHDR映像技術「ドルビービジョン」の高画質映像だ。ドルビービジョンは当初HDR(ハイダイナミックレンジ)を表現する技術として、TVモニターの技術として開発されてきたものだが、このドルビーシネマでは高輝度なレーザープロジェクターを採用することで、シアター設備でもその効果を実現したもの。
特に鑑賞して一番感じる部分は暗部の表現力だ。通常のシアターでは、暗転で画面全体が黒くなる場合でも、実際に見えている画面はなんとなく光が当たってダークグレーに見える。これは元々スクリーン自体の色が白またはシルバーであることと、暗転時でもプロジェクターから放たれる光線に微量な光が含まれているからで、これまで完全にそれを消すことは難しかった。しかしドルビーシネマでは完全な黒=いわゆる漆黒の闇が再現可能になっている。これを例えると、演劇などが始まる前に非常灯も消灯して、劇場内が完全暗転して真の闇を作る演出があるが、これと全く同じ状況がシアターで再現できるのだ。さらに映像内においても暗部の階調性を細かく再現できることで、暗部における役者の表情や背景の細部を的確に伝えることができる。

究極のシアターデザイン

3つ目の大きな特徴として、ドルビーシアターでは設備部分でも独自の設計がなされていること。まず特徴的なのはシアターへのエントランス部分だ。入り口の通路には「DOLBY CINEMA」のロゴサインと、上映作品の映像イメージなどが映し出されている。中に入ると床、天井、壁、そして座席までが完全に黒で統一され、ドルビーシネマのオリジナルカラーであるブルーライトの照明ラインが座席部全体を囲むように配置されている。座席は劇場の大きさに対して適正数が配置され、光を反射しない素材を採用するなど、どの席に座っても音響と映像を最高の状態で鑑賞できるように工夫されている。また映画に集中できるように可能な限り一切の無駄を排し、防音・防振などの音響デザインにも最適化されたインテリアで、究極のシアターデザインを実現している。

最新のHDR映像技術

映像を投影するプロジェクターはドルビービジョンを実現する高輝度を実現するため、専用の2基の4Kレーザープロジェクターでデュアルプロジェクション投影される(注1)。これがドルビー独自のシステムでチューニングされ、通常の500倍となる、1,000,000:1という高コントラストを実現。さらに輝度も108nits=31feet/lamberts(注2)という、これまでの約2倍以上の高輝度を実現してHDR映像を投影する。
また、3D作品の上映でも、2台のプロジェクターにより、レンズの前に置かれたカラーホイールを使用せずに、左目用と右目用、それぞれの映像を表示可能となり、従来の3Dフィルムで発生したフラッシュやジッターが解消され、輝度も従来の3Dが3~7feet/lamberts であったのに対して、「ドルビーシネマ3 D」では、約2倍の14 feet/
lamberts(48 nits) を実現可能だ。
HDRを実現するドルビービジョンのホーム用のマスタリングが可能な施設は、現在、北米のメジャースタジオのポストプロダクション施設を中心に約50カ所のほか、欧州13、アジア圏13、南米3、カタール1の約80拠点が存在。日本ではソニーPCLなどがドルビービジョンのマスタリング対応設備となっている。

世界で拡大するドルビーシネマシアター

初のドルビーシネマシアターは、2014年12月15日にオランダ アイントホーフェンのJT Bioscopen(現 Vue Cinemas) に設置された。その後、数を増やし続け、現在では世界11カ国、導入興行社数20社、400スクリーン以上で導入(予定含む)されている。
ちなみに、ドルビーアトモスについては、導入スクリーン数は4,800以上(予定含む)、導入興行社数47以上、約90ヶ国で導入が進んでいる。
ドルビーシネマ対応にすることの意義やその魅力については、作り手側の意見として多くの有名監督がその有用性や表現を賞賛しているが、あのレディ・ガガが出演して話題となり、2019年(第91回)のアカデミー歌曲賞も受賞した「アリー/スター誕生」の、監督・主演したブラッドリー・クーパー氏が、このドルビーシネマの魅力を伝える映像が公開されている。

ブラッドリークーパーが語るドルビーシネマの魅力
https://www.youtube.com/watch?v=JKe_C-GMTP4

増え続けるドルビーシネマ作品

ドルビーシネマ作品は、2019年4月現在までに世界で210タイトル以上(公開済み公開予定含む)の作品がリリース。ちなみに立体音響のドルビーアトモス作品は、2019年2月時点で1,000タイトル以上の作品がリリースされている。

日本国内におけるドルビーシネマ作品

<上映済み作品>

「ファンタスティック・ビースト2」(ワーナージャパン)
「アリー/スター誕生」(ワーナージャパン)
「ボヘミアン・ラプソディ」(20世紀FOX)
「メリーポピンズ」(ウォルト・ディスニー・ジャパン)
「ファーストマン」(ユニバーサル)
「アクアマン」(ワーナージャパン)
「スパイダーマン/スパイダーバース」(SPEJ)
「キャプテンマーベル」(ウォルト・ディスニー・ジャパン)
「アベンジャーズ/エンドゲーム」(ウォルト・ディズニー・ジャパン)
「名探偵ピカチュウ」(東宝)
「轢き逃げ -最高の最悪な日-」(東映)

<今後の公開予定作品>

2019/5/31「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」(東宝)
2019/6/7 「アラジン」(ウォルト・ディズニー・ジャパン)
2019/6/14「メン・イン・ブラック:インターナショナル」(ソニー・ピクチャーズエンターテインメント)
2019 夏 「スパイダーマン:ファーフロムホーム」(ソニー・ピクチャーズエンターテインメント)
2019/7/12「トイ・ストーリー4」

日本国内でのドルビーシネマシアターの設置状況だが、昨年11月23日に日本初のドルビーシネマシアターが福岡県博多駅にあるT・ジョイ博多に誕生、2019年4月26日には、埼玉県のさいたま市のMOVIXにオープン、年内にはさらに国内2ヶ所がオープンを控えている。

注1)必ずしも2台のプロジェクターを投影することがドルビーシネマの規定ではなく、狭いシアターでも108nitsの輝度が確保できれば1台投影の場合もある。その場合3D上映には非対応。

注2)業務用のHDR対応モニターの輝度は1000nits以上とされるが、これは自発光のモニターディスプレイの場合。劇場用プロジェクターの投射光輝度は、通常の劇場にあるプロジェクターでは14feet/lamberts:48nits程度。

国内のドルビーシネマシアター設置館

博多 T・ジョイ博多(2018年11月23日 オープン)
さいたま市 MOVIX さいたま(2019年4月26日 オープン)
大阪 梅田ブルク7(2019年 夏 導入予定)
東京 丸の内ピカデリー(2019年 秋 導入予定)

VARICAM LT・AU-EVA1
ノイズを活かす、トーンマッチング重視

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撮影監督 会田 正裕〈 アップサイド 〉

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「轢き逃げ-最高の最悪な日-」 は、リアリティのある登場人物の表現を追求しました。今回のカメラは、パナソニックのVARICAM LTとEVA1を選びました。両方とも暗いところに強い、デュアルネイティブISOが備わっているところも大きな選択理由ですが、それ以外の理由もあります。映画は全て高画質である必要はなくて、例えばEVA1では機動性重視で撮っている場面が多いのですが、暗いとどうしても増感していきます。そうすると当然ノイズは増えますがそのノイズ自体の素性が良いのです。決してフィルムを目指している訳ではないですが、一般的に映像を見ている側は、ノイズ=闇を感じる部分があります。その闇を表現する情報素材として、そのノイズを使えたらと思いました。現に闇の乱闘シーンなどでは本来ならばVARICAM LTを使うところを、機動性+増感ノイズ狙いで、あえてEVA1を使用しているカットもあります。
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また時間で数多くのカットを撮ることの機動性や、マルチカメラが必要な撮影が多かったので、カメラ同士のカラーマッチングを重視してカメラを選択しました。
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ドルビーシネマについては、一般的には表現力が広がっていると理解して頂いて良いと思います。技術的に言えば、明るさや色の密度など情報量が増えていて、音響も天井にスピーカーが沢山ついているのでサウンドがとても立体的になっています。ドルビーシネマは水谷監督の、人の内面を表現したいという希望に対してリアリティが増すのです。実際には人の気配や光の眩しさ、空気を感じたりできることで、よりリアリティや没入感を増す効果が得られ、ドルビーシネマ版の効果はとても大きいですね。

特に「暗い」ということが表現できる意味では全く新しい映画だなと思っていて、目をつぶった時の感覚と同じような真の闇を表現できることで映像演出の幅も広がると思います。
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この作品でも闇の中のシーンがいくつかありますが、本当の臨場感=暗さの魅力が表現されたことで、サスペンスの部分はより緊張感を持って、光の部分はさらに光の強さを人間の感覚と同じに感じることができるなど、新しい体験ができるでしょう。

さらに詳しく…
HOTSHOT Youtubeチャンネルで公開中
映画「轢き逃げ -最高の最悪な日-」× DolbyCinema
https://www.youtube.com/watch?v=Tqn9-rXVaKA

シニアカラーリスト 佐竹 宗一〈 東映ラボ・テック 〉

Satake 追加
ドルビーシネマでは、まずこれまでのデジタルシネマに比べて、黒の表現がより黒い黒、深い黒が表現できるので、それにより絵に奥行きが出てきます。コントラストを含む表現の領域が広がっているので、例えば風景や実景のシーンでも、これまでは霞んで見えていた遠景が、立体的に見えるようになり、より奥行きが出てきます。表現に使える領域が広くなったことで撮影現場で実際見ていたものに、より近い表現ができるのです。暗いシーンもこれまでのただ暗いのではなく暗いけど見えるという表現が可能になりました。

今回ハリウッドにおけるドルビーシネマへの変換作業に備えて、事前に日本では1000nitsのモニターで調整したHDRデータを持って行きましたが、実際にドルビーシネマスクリーンの4Kデュアルプロジェクションで見る108nitsのHDR映像では、モニターとはその見え方が大きく異なり、結果的に現地で全てデータを作り直すことになりました。僕はこれまでもHDRの映像を作ってきましたが、今回ドルビーシネマの制作に関わったことで、これまで僕が思っていたHDRとは大きく意識が変わりました。これまでのHDR表現によくある派手な演出や高いコントラストということではなく「これまでの映像の先にある高画質な映像」という表現に近いと思います。

さらに詳しく…
HOTSHOT Youtubeチャンネルで公開中
「カラーリスト視点で考察するドルビーシネマ/佐竹宗一」公開中
https://www.youtube.com/watch?v=TGJYB55by9o

©️2019映画「轢き逃げ」製作委員会

4月26日、関東初のドルビーシネマがMOVIXさいたまにオープン!

松竹マルチプレックスシアターズ(SMT)は、4月26日に関東圏では初となる、ドルビーシネマをMOVIXさいたまにオープンした。国内では昨年11月に福岡県のT・ジョイ博多にオープンした第一号に次いで、国内2番目の劇場となる。従来のシアター11をドルビーシネマに改装。新たなスクリーンサイズは幅13.92m× 高さ5.80m(改装前 幅14.40m × 高さ6.03m)、座席数は290席+車椅子席2席(改装前418席、車椅子席2席)と、どの位置からも鑑賞しやすいシアター環境に最適化された。鑑賞料金は通常料金に加えて、ドルビーシネマ作品は+500円、ドルビーシネマ3D作品は+900円。

SMTでは今後もドルビーシネマの導入に力を入れていく予定で、今秋には東京初となる丸の内ピカデリーへの導入も決定している。

MOVIX さいたま
公式サイトはこちら
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(左から)シニアカラーリスト 佐竹宗一氏、撮影監督 会田正裕氏、カラーリストグループ リーダー 檜山めぐみさん