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シネマフィルター新時代

- marumi CINE & TV / WSND シリーズの挑戦 -

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シネマ用フィルターの世界がにわかに賑わいを見せている。フルサイズの大判センサーカメラの登場、センサーの感度やカラーコントロール性能の向上により、最新のデジタルシネマにフィットした仕様がフィルターの世界でも求められている。
フィルム時代から愛用されている老舗のTiffenやSchneider、そして近年スタンダードに使用され始めた、三友のTRUE ND、ARRI FSNDといったすでに信頼を得ている製品群もある中で、ここにまた新しい風が吹いてきた。
マルミ光機は、今までにデジタル一眼レフカメラを購入したことのある方ならば大凡は目にしたことがある、もしくはお世話になっている名前ではないだろうか。そう、フィルター専門ブランドの「marumi」だ。
そのmarumiからハイエンドのシネマ用フィルター「marumi CINE & TV」 シリーズが2018年の秋に発表、11月のInterBEE2018でも紹介され、いよいよ2019年2月から発売されることになった。 このカテゴリーに真っ向勝負で挑んできた最初の製品ラインナップはNDフィルターのWSNDだ。国産フィルター専門メーカーが新たにシネマ業界に挑む、その思惑と実力は?

フィルター専門メーカーのシネマ業界参入

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写真の世界ではmarumiブランドで有名なマルミ光機は、本社を東京都北区田端に置き、製品工場を長野県の諏訪・辰野エリアに置く、フィルターメーカーで唯一「国内一貫生産」を謳っている。2002〜2003年というかなり早い段階で(EOSでいうと10D、NikonでいうとD100の頃というとわかりやすいだろうか)コーティングや反射率の低減などを作り込んだ「デジタル対応」のフィルターを手頃な価格でリリースしていたため、新しいレンズを買ったらまずはDHGシリーズの保護フィルターもセットで、という方も多かったと思われる。
その2000年代初頭から20年に迫ろうかという歳月が流れ、今やカメラ業界は写真機と映像機の境目が曖昧になった渾然とした環境に置かれている。DSLRやミラーレスカメラに大掛かりなシネレンズを装着してシネマライクな動画を撮り、DSMC(デジタルスチルモーションカメラ)と銘打ったシネマカメラにDSLR用のレンズを合わせて8Kサイズの静止画をキャプチャーする。そんな光景が当たり前に見られるようになった。

その中で2年前に、日本の老舗レンズメーカーSIGMAが、プロダクトコンセプトを大幅に変更し、シネレンズ業界にまで参入してきた。高解像度時代に対応し、そのシャープさと美しいボケ味、そして価格のバランス、様々な要素を見事に調和させて写真映像問わず国内外から非常に高い評価を得ている。
そして今度はフィルターの世界でも、長野の地からmarumiもそういった大きな変化の兆しを見せようとしている。DSLRコンシューマー向けのフィルターを主要ラインナップとして提供してきたmarumiが、映像業界向け製品、しかもハイエンド向けの製品を開発してきた。それが今回紹介するWSNDシリーズだ。商品としてはシネマ業界では馴染み深い角形4×5.65 NDフィルターのハイエンドラインになる。ブランド名も「marumi CINE&TV」とし、marumiブランドを前面に推しハイエンド向けを用意しているところに、マルミ光機としての本気度が伺える。

EOS C700 FF&シネレンズ + WSND テストシューティング

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WSNDのテスト撮影にあたり、今回は5.9Kのフルフレームセンサーを搭載した、キヤノンEOS C700 FFに、フルセンサー対応のシネマレンズ Canon CN-E 20mm T1.5 L F、35mm T1.5 L Fに加えて、SIGMA 105mm T1.5 FFで、その性能を検証。室内でのフォーカス&カラーチャートテストと、屋外での実景撮りによるIRテストなどを行なった。

参考までに、SIGMA 105mm T1.5 FFによるチャートテストの結果を下記に並べた。
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No ND / ISO 100
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WSND 0.3 / ISO 200
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WSND 0.6 / ISO 400
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WSND 0.9 / ISO 800
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WSND 1.2 / ISO 1600
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WSND 1.5 / ISO 3200
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WSND 1.8 / ISO 6400
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WSND 2.1 / ISO 12800
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WSND 2.4 / ISO 25600
0(Clear)から、0.3、0.6、0.9、1.2、1.5、1.8、2.1、2.4までのテストでは、番手によるカラーシフトは目立ったほどは見られず、まだ荒削りな面はあるものの性能としては現段階から非常に良好なレベルに達していると言える。NDとしてもっとも重要な減光した際の色への影響の少なさはもちろんのこと、marumiが培ってきたガラスの貼り合わせ技術を用いることによってND面をガラスの中に封じ込め、最も重要で傷や汚れの許されない部分を保護するという造りとなっているため、使用する際の安心感は非常に高い。貼り合わせのエッジ加工、シーリングもしっかりとなされ、万一の落下にもある程度耐えうるとのことだ。また、番手もクリアから2.4まで9種類を0.3刻みでラインナップし、まさに開発メンバーそのものが写真が好きで、常にユーザー目線を持って現場運用を考えながらブランドを築き上げてきたmarumiらしい商品だ。

さらに屋外では、今回人肌のテストはできなかったが、強い太陽光下でもIR(赤外線)の影響は受けにくいことも確認された。
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しかしながら現状ではまだ、改善するべき点はいくつか残っていると感じる。例えば各番手によって見た目の色が違って見えるが、これは2枚のガラスに異なる4種のNDコーティングを施し、その張り合わせの組み合わせによって番手を調節しているための結果だ。もちろん映像への色被りなどはないことはmarumi側でも実証しており性能上の問題ないが、見た目として反射の都合上、各番手のフィルター自体の見た目色が大きく異なるので、ハイエンドなシネマ業界で厳しい目を持つDPは、この点に一抹の不安をもってしまうかもしれない。
もちろんこの部分はメーカー側も認識しているので、早い段階で改善していきたいとのこと。またサポート体制やハイエンドならではのシリアルナンバーによる固有管理などは、ユーザーの声を参考にアップデートしていきたいとしている。
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そして当然のことながらフィルター専門メーカーの名を謳うmarumiとしてNDだけに留まるつもりはなく、フィルターワークの真骨頂となるようなミスト系、ポーラ、ストリーク等の、シネマ業界で用いられる様々な種類のフィルターにも後々挑戦していきたいという。いずれにせよチャレンジしてみないことには始まらない。開発陣には強い想いがあるようだ。
今現在確固たる地位を築いている他社フィルターも、初期リリース時には同じような問題を抱えていた経緯をいくつも見てきたユーザー側としては、専門メーカーの今後の展開が非常に楽しみだ。

オプティカル機材を映像の個性に

今、映像業界は様々な技術導入による大幅な高性能化や自動化が進み、撮影・編集の両面から個性の演出が難しくなっていく未来がうっすらと見えている。すでに走り出している8Kが顕著な例だ。余裕を持って据えられた8K・16Kの高解像度の中からAIが必要なものを抽出し、万人に好ましい色付けをし、アウトプットする。現時点では突飛なはなしかもしれないが人間のフレキシブルな思考である「選択」を活かせる機会が減っていくのだ。それが善か悪かという議論は一旦横に置くが、その中で最後まで人間の「選択」の余地が残るのがカメラ前にあるオプティカル部分ではないだろうかと思う。照明、レンズの個性はもちろん、撮像面に向かってくる光に足し引きをするフィルターワークも然りだ。カメラの性能で、ポスプロで、エフェクトで、ということでは補えきれない、撮影現場の空気感そのものに味付けする。映像の根本的な情感を、個性を「選択」する重要な部分だと思う。少々大仰な話になってしまったが、この思考の一助になってくれるフィルターに様々なバリエーションをもたらしてくれる存在はとても心強いものだ。撮影人として、marumiの開発陣の強い想いはしっかりと受け止めていきたいと思う。

誰しもが初めから大きく活躍する立場にいたわけではない。下積みや新しいことへの挑戦を経て成長していったはずだ。それはメーカーであろうが個人であろうが変わらないはずだ。表現を模索していた駆け出しの頃、SIGMAのレンズにmarumiのフィルターをつけて必死に覗いていた世界が、時を経て、色を変え。近い将来もう一度眼前に現れる時がくるかもしれないと思うと、この誇りたくなるようなメイド・イン・ジャパンの巡り合わせについ、心が躍ってしまう。

マルミ光機 「marumi CINE & TV」開発者インタビュー
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左:関 浩幸 / Hiroyuki SEKI(長野工場長)
右:高橋 薫 / Kaoru TAKAHASHI(製品開発部長)

開発の経緯は?

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高橋:2012年頃をピークにデジタルカメラの市場全体が縮小した、当社でもその打開策の中で、産業用や検査用、映像用など、他の分野への進出を目指し、市場調査をしてきました。その中で、シネマ用のフィルターが比較的ニーズの近い市場であると考えました。映像用ハイエンド市場においても、当社のガラスコーティングの技術や、貼り合わせの技術が競争力を持つものと考え、約4年にわたる開発を経て、今回の発表に至りました。
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関:コーティングが表面にある場合、撮影現場での取扱いの中でキズができることで使い物にならなくなるケースもあると思いますが、当社の製品の場合、貼り合わせの内側にコーティングをしているため、その点の不安が少ないといえるでしょう。長年にわたり、フィルター専門メーカーとしてやってきた中で培ったノウハウを生かし、機能、使いやすさ、撥水・防塵性能などを強化しており、現場における多少手荒な扱いにも耐えるように開発しています。

他のシネレンズ用フィルターとの大きな違いは?

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高橋:映画撮影で複数のレンズを用いることを想定し、それにあわせて異なる多くの番手のフィルターをシリーズとして揃えている点です。当然、番手を換えても安定した色味再現を実現しており、近年多く登場してきた大判センサーカメラにも対応できるだけの色味の精度になっていると自負しています。細かい部分でいえば、内面反射や遮光をおさえるようガラスの反射率や面精度などを高め、ハイエンドにふさわしいシリーズとなっています。ガラス硝材は、スチルも動画もそれぞれ特性に合わせたものを選定していますが、今回はドイツ Schott社の”B270i”を使用しています。コーティング含め、品質保証のレベル、レスポンスの良さなど、総合的に日本ならではの高品質を実現しています。

現状の製品は番手によってフィルターの見た目の色が違うが、その理由は?

関:色の違いは、NDのコート層の反射によるものです。4種類のNDコーティングの組み合わせ、それを張り合わせて番手を調整しているため、見た目は異なりますが、画質に大きな影響を与えない点は検証済みで、光学的な数値としても無視できる範囲におさまっています。ただ、この部分もユーザーの方々のご意見をお聞きしながら、さらに改善をしていきたいと考えてます。

販売、サポート態勢は?

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関:当社ではスチル用のフィルターにおいて、世界中にディストリビューターがありますが、シネマ用のディストリビューションはこれとはまったく別に考えており、映画制作の市場を得意とするディストリビューターと連携していきます。まずは、国内市場と、ハリウッドを中心に米国での展開を積極的に進め、欧州、中国へと展開していきたいですね。

高橋:国内では、お客様の意見を伺いながら、運用上のサポート態勢の検討をしていきます。

今後の製品展開など

関:今回はまず、第一弾としてNDフィルターを製品化しましたが、今後はこのNDフィルターをさらにブラッシュアップしていくとともに、ミストやソフトフィルターなど、ラインナップを増やしていきたいと思います。

いま撮影現場で活躍する、シネマ用NDフィルター

ARRI FSND

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ALEXA Mini、AMIRAに搭載され、各方面から高評価を得ていた内臓のフルスペクトルNDフィルターを、そのまま光学製品化したFSNDフィルター。6.6”×6.6”と 4”×5.65”の 2 種類が用意され、Schott 社製 B270i ガラスを採用、反射率も一般の撮影用フィルターの1/20の0.2%を実現。ガラス表面の端にあるバーコードは世界中の一般的なリーダで読取り可能、管理の効率化や所有者の明確化を行うことができる。直接レーザー刻印されており、剥がれ落ちもない。

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撮影現場の要望に答えるために三友が開発したシネマ用NDフィルター、TRUE ND。シンプルな1層コーティングにより、光になるべく影響を与えない正確な透過率を追い求めた設計思想。蒸着製法を採用し色転びが無く、高精度の透過率を得ることができる。濃度の高いNDを使用する際に心配される赤外光への対応も万全で、赤外領域である750nmまでフラットな透過率を維持。6.6”×6.6”インチの従来サイズに加えて、新たに4”×5.65”の小型サイズも登場、傷に強い新コーティングで、各0.3~2.1までの7番手を揃えている。

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