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ZEISS Supreme Prime ラージフォーマット時代到来!

- 拡がるラージフォーマットの世界は何をもたらすのか? -

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シネマカメラが大きな変革期を迎えている。4Kスタンダード撮影の普及とともに、センサーサイズもスーパー35mmから35mmフルサイズへ、そして更に大きなラージサイズへのアップグレードで、より広大な世界をリアルに映し出すための技術も熟成。その結果として登場して来たのが、昨年発表のソニーVENICE、RED WEAPON MONSTRO 8K VV、今年初頭に登場したARRI ALEXA LF、そして今春に登場したキヤノンEOS C700 FFだ。
さらにそれに呼応するように、レンズの世界でもOVER 4K、そしてラージフォーマット対応シネマレンズが登場。そしてプライムレンズ(単焦点)の世界でも、昨年登場して来た、ライカのTHALIA(タリア)やCooke S7/i、今年初頭に発表のARRIのSignature Prime Lens。
そして満を持してこの6月に登場するZEISS の新シネマレンズシリーズ、Supreme Prime Lensとメジャーメーカー製品が出揃い、これらのカメラとレンズが映像業界に、今また大きな変革をもたらそうとしている。
もちろん、日本のレンズメーカーも含めて、4K対応、ラージフォーマット対応を表明しているレンズはすでに多々ある。しかしこれらの単体販売レンズと、プロの世界でセットレンタルされるシネマレンズ製品と大きく異なるのは、世界のどこででもサポートやメンテナンス体制が完備されているかどうかという点だ。とりわけ国境を越えて国際的な映画、CM等で使用される際には、どんな場所でも同じレンズセットが最良のコンディションでレンタルできることが求められる。そのメンテナンス設備やテクニシャンの育成、各部材の供給などができるのはZEISSなどの一部メーカーに限られてくる。こうしたカタログスペックには現れない精密度や汎用性、そして製品の長期にわたる信頼性は、長年プロフェッショナルな道具を作ってきたメーカーに一日の長がある。
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これまでにZEISSが独自に販売してきた製品としてはCP.2、CP.3、CZ.2、LWZ.3が挙げられるが、今回のSupreme Primeは高画素デジタルシネマ時代になってからのZEISS初のハイグレードレンズ・シリーズとなる。
今号では、そのプロローグとなる日本国内撮影によるデモ映像作品「継(つなげる)TSUNAGERU – The Heritage of Iwami Kagura – 」の撮影制作に密着取材した。

監督&撮影監督 佐光 朗 J.S.C.
プロデューサー 柳島 克己 J.S.C.
アシスタントプロデューサー 永田 秀二(nac)、 小倉 新人(Carl Zeiss)
カラリスト 山下 哲司(IMAGICA)

ZEISS Supreme Prime / show reel
「継(つなげる)TSUNAGERU – The Heritage of Iwami Kagura -」

ロケーション

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日本の原風景をいまに残す島根県西部に位置する石見地方。ここに伝わる石見神楽は、神話の世界を躍動感溢れる舞と独自の音楽で表現される伝統芸能。いまでも地域の人々に親しまれ、その業は親から子へ、子から孫へと伝承されている。そしてそれは舞だけに留まらず、神楽で使用される石州和紙から創られる神楽面、そして豪華絢爛な衣装まで、神楽文化全体が永く受け継がれている。本作は、石見の大自然と古き良き町並みの中で、受け継がれていく石見神楽の魂を伝える。

高画素、高感度のメリット

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本作では世界初の試みとして、SONY VENICEとの組合せが実現。ラージフォーマットセンサー・ 6K収録に加えて、今夏にリリース予定のバージョン2.0で搭載される、Dual Base ISO機能を搭載したカメラで撮影。ZEISS Supreme PrimeのT1.5という明るさと高感度撮影による映像制作が実現した。ベース感度ISO2500とZEISS Supreme Primeとの組み合わせは、屋内暗部や夜間でも絞りのコントロールが容易になるなど、その描写力と機動力はスタッフからも高い評価を得た。

100年にわたるシネマレンズ製造の歴史が受け継ぐもの

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ZEISS Supreme Prime Lensは、最新のeXtended Dataテクノロジーや交換式のマウントなど、最新のテクノロジーも搭載。さらに従来のUltra Prime、Master Primeとフランジバック厚調整用のShimサイズを同一規格で設定するなど、サポートやメンテナンスにおいてもZEISSならではの配慮がなされて、各国の技術者が違和感なくがこれまで通り整備対応できる工夫が施されている。

作品による選択肢が増える

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カメラ側もスキントーンが際立つARRI ALEXA LF、8K高解像度のRED WEAPON MONSTRO 8K VV、高感度のSONY VENICEと、それぞれ特徴を持ったラージセンサーシネマカメラの登場により、撮影自体の可能性がまた更に広がった。そこに対応するZEISS Supreme Primeは市場的に見ると、カールツァイス社としてはMaster PrimeとUltra Primeの間に位置する製品でありつつも、35FFプラスのセンサーカバー領域、LPLマウントにも対応しカメラを選ばない汎用性、大幅に小型化されつつもハイスピードが確保された光学系、13焦点距離、と非常に高度にまとめられた製品になっている。ユーザー側から見れば、ラージフォーマット対応レンズの中では、Cooke S7/iとLeica THALIAに加えて名門ZEISSからの発表・供給となり、まさに市場のレンジが埋まるかたちでリリースされることになる。このZEISS Supreme Primeの登場により、組合せの選択肢も大きく広がり、やがて未知の映像体験を我々にもたらしてくれることを期待しよう。
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ZEISS Supreme Prime座談会

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佐光 朗氏 J.S.C.〈 Director & DP 〉
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山下 哲司氏〈 Colorist / IMAGICA Corp. 〉
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小倉 新人氏〈 Carl Zeiss Co., Ltd. (Japan) 〉

ZEISS Supreme Primeのためのデモ映像「継(TSUNAGERU)」の制作に携わった方々に、カメラマン、ポストプロダクション、メーカーのそれぞれの立場から、作品の狙い、レンズの使用感、ラージフォーマットカメラシステムでの撮影の感想とその未来について語って頂いた。

デモ映像「継」撮影と作品の印象

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小倉:本作では弊社の新しいシネマレンズSupreme Prime(SP:スプリームプライム)と新しいラージフォーマットカメラ、SONY VENICEでの撮影をお願いしました。まずは新レンズを使った感想はいかがでしたか?

佐光:SPレンズはT1.5という非常に明るいレンズで、これをフルフレームセンサーの最新のSONY VENICEで撮影するということで、初めてづくしの経験でしたが、レンズの最初の印象はかなり寄れるな、ということでした。マクロ感覚で撮れるので、そのメリットは感じましたね。これまでスーパー35mmでの接写はプロクサーフィルターを使っていましたが、現場ではずっとプロクサーを付けているわけにはいかず、どこかで外さないといけないという手間がありました。その分、SPレンズは付属品なしでかなり寄れることは自由度が高いと思いましたね。

小倉:寄れるということは、今後の映画撮影にも幅が出るということでしょうか?

佐光:そうですね。もちろん作品にもよりますが、僕はデイオープンでもナイトオープンでも、作品を観たときの違和感が出ないように出来るだけ同じ絞りで撮りたいと思っています。今回はVENICE+SPで、特にVENICEの機能であるDual Base ISO機能で、ベース感度をISO2500に設定した場合、ナイターでもデイの絞りで行けるのでは?と考えました。その辺の可能性は広がりましたね。あとALEXA との組み合わせでよく使うMASTER PRIMEはもちろん最高峰のレンズでブリージングもありませんが、重くて大きい。最近のシネマカメラが小型化している中で、SPは口径95mmというコンパクトに作られた高性能シネマレンズです。現在のシネマカメラの動向やニーズにも合致していると思いますし、今回の助手たちもとても取り回しがしやすいと言ってました。

狭い空間での奥行き感の演出

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佐光:今回の作品で一番意識したのは、やはり奥行きの表現ですね。奥行きのポイントとしては、山、海岸、そして日本特有の狭い室内です。特に日本では狭い空間のなかで、どれだけディストーションを感じさせずに奥行きが出せるのか、が課題でした。そして作品に日本らしさを取込むというテーマもありました。僕は低予算作品でも大作でも、自然の一番良い状態を撮るにはシャッターチャンスを吟味するしかないと思っています。そしてラージフォーマットやレンズ性能、そして解像度も上がることによって、そこに写る被写体もホンモノでないとダメだと思い、そこも強く意識しました。その条件を満たしてくれるロケ地と被写体として、島根県の自然と石見神楽という伝統芸能を選びました。しっかりした被写体をしっかりしたカメラ+レンズで撮れば、自ずと結果は出ると思いました。しかも今回は大きなクレーンや特機も一切使わず、被写体ありきでシンプルに撮っています。それが上映したときにどう見えるかがテーマでしたね。

小倉:和紙の紙すきのシーンなど、マクロショットを多用されていたのが印象に残っています。

佐光:レンズのデモなので技術的な面も意識しましたが、撮影者の方ならば分かってくれると思いますが、最近、奥行きを出すためにわざとぼかす、しかも異常なくらいぼかしてる作品も多いのですが、ぼかす=立体感を出すことで技術が映像を邪魔しているものが多く見受けられます。そこで今回はあえて絞りを開放せずに、映像としてちょうどいい状態の絞り値、つまり5.6とか8を使ってどのくらいの奥行きをどうあざとく無く出せるか?を探ってみました。

小倉:今回山下さんも撮影現場に立ち会って実際の色や光を見ておられましたが、ポストプロダクションの側からみて、実際に撮影現場に立ち会うメリットとは何ですか?

山下:現在シネマカメラのポテンシャルが非常に高くなっていて、カラーコレクションについても無限の可能性が出て来ています。自由度が高い分、現場の色や光を知らないと、如何様にも作れてしまうのです。今回の作品では、実際に撮影現場を見せて頂きました。僕たちはこのように撮影現場に立ち会える機会は少ないのですが、現場の光や撮影時の絞りの狙いなどを佐光さんと話す事もでき、ここから何を目指すのか、という作品の方向性や現場の熱も一緒に共有できたことは、カラーグレーディング作業においても最短ルートで最適化できることになり、それこそが現場で実際にDPとコミュニケーションができることのアドバンテージだと思います。

佐光:今回初めてのカメラとレンズの組み合わせだったこともあり、山下さんにはデータ管理も含めて撮影前から技術的アドバイスを頂きました。僕らは普段からこうしたキャッチボールで仕事していますが、今回は初めての機材を使い、技術的にも初めての試みが多かったので、実際の現場を観てもらった方がいいと思いました。そうすることでキャッチボールの回数は減りましたが、精度は高まっています。仕上がった作品を見ても明らかなのは、今後ラージフォーマットで撮影してHDR仕上げとなると、カラーリストの役割はこれから益々大きくなる、ということです。

小倉:スーパー35mmから35mmフルサイズセンサーになって横幅がだいぶ広がり、撮れる画の画素数も増えたので、作品画像のチェック中にモニターで150%〜200%に拡大したときは衝撃でした。これだけ拡大しても、私の目には全く破綻しているようには見えませんでした。またHDR化したバージョンも見せて頂きましたが、画面隅々に渡る質感再現に驚きました。これからはますます撮影やポストでごまかしが効かないですね。

山下:カメラもレンズも性能が上がったことで、解像度も質感もリアルに近くなります。ホンモノをしっかり撮れば、それが確実に写り、伝わる時代になりました。こういう技術進歩でどんどん現場主義が進むと思いますし、HDRはもっとそうでしょう。今回僕の方で実験的にHDR画像も作らせて頂きましたが、HDR撮影がちゃんと成立するというのは現場での露出の決め方などがちゃんとしているということの結果です。今回の驚異的な安定感の撮影だからこそ、素晴らしいHDR画像が見られるのです。

佐光:今回は、出来るだけフレームの角まで使いたかったので16:9の画角で仕上げています。6Kの高画素だからこそ、これだけトリミングしても大丈夫ですが、実際に6Kで撮影を取り回すには、使い手のスキルもかなり要求されるでしょう。高画素カメラと高画質レンズだと、様々な部分で結構シビアなことを要求されてくるので、今後はちゃんと助手を育てないといけない。技術進歩が目覚ましいなかで、やはり現場の力が問われてくると思います。

時代に呼応したレンズの登場

小倉:製品と言うのは時代に呼応して出てくるもので、フィルムカメラの時代にはUltra Primeが、初代ALEXAが出たときはMaster Prime がありました。今回のレンズにはZEISS Supreme Primeという名前が付けられていますが、これは次の10年間を見据えて設計されており、世界で活躍してゆくレンズだと思っています。幸いレンズはカメラ本体よりも製品寿命は長く資産価値も失いにくいので、最新のカメラにあわせつつ、その後も長く使って頂きたいという思いを込めています。最近ではオールドレンズを使って作品を撮る方も増えていますし、メーカー別の個性も際立って来ていると思います。SPの登場も「絵を描く方の絵筆が増えた」というイメージで、撮影現場の方にはさらに選べるレンズが増えたと考えて頂けたらと思います。

佐光:たしかに選択肢は増えましたね。この前も撮影部でREDの初期センサーが良いという話が出ましたが、やはりデジタルカメラは進歩が速いので電気部品にも寿命があり、いつまでも古いセンサーにこだわっていられないという制限があります。その点、レンズは寿命が長いですし、さらにカメラでは出せない、グレーディングだけでは出来ない味というのが、レンズにはあります。他のレンズでなければ出せない味などを持つレンズは、時代が変わっても名品として生き残っていますね。

小倉:昨今のラージフォーマットカメラ・レンズの登場により、今後のプロジェクトにおいて技術的な選択肢が増えるということはありそうですか?

佐光:今回、VENICEのDual Base ISOとSPレンズの組み合わせで、そこにISO2500の高感度を加えることで絞りに自由度が出て、被写体にかなり接近でき、さらに奥行き感も演出できるのは大きかったですね。映画撮影でもそれなりの大きなセットが組める現場はいいですが、国内でしかもロケセットで撮るとなると、どうしても狭いところが多いので、レンズの画角を拡げていきます。しかし意図と異なって勝手に奥行き感が出てしまうのは困りますし、フルセンサー対応カメラ・レンズというのは絞りを自由に選べるという点で新しい選択肢が増えたわけです。僕は35mmの距離感やディストーションは好きなのですが、SPの35mmで通常(スーパー35mm判)の25mm感覚で撮れるのは、ちょっといままでと違う新鮮な感覚でいいな、と思いました。

ラージフォーマットカメラと対応レンズが画質にもたらす恩恵

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佐光:実は僕は、レンズの存在感を感じてしまうので、スーパー35mmのシネスコ・サイズ調整はあまり好きではないのです。僕はどうせならレンズの画面をフルに使いたい。一部のカメラマンはフレームで画角を決めるようですが、僕ら映画撮影者は、レンズのmm数とレンズの個性で絵を撮ります。対象をどういった距離感で撮るのか、奥行きと質感、そしてアングルが決め手です。それらが決まっていれば、あとはそこから寄っても絵は成立していますので後々トリミングでも如何様に加工して貰えればいいわけです…よくポスプロ作業の小さなモニター判断で、勝手にトリミングされる事が多いので(笑)…。 僕はどちらかというとフレームよりもそちらの方が大切かなと思っています。フルサイズの4:3センサーでSPのような良いレンズが出て来たので、最近スタンダード作品も増えてきましたし、今後はレンズの全領域を使って4:3でモノクロで撮った作品も出来るかも知れませんね。

山下:佐光さんからいま初めてこういう話を聞いて、フレーミングとmm数の関係って重要だなと思いました。実際にフレーミングで切ってしまった画面には落ち着きがありませんし、最初から何mmでこう撮ったという素材はやはり違って見えます。その辺りを含めて役者との気持ちいい距離感だったり現場での雰囲気は、撮影者にしか分からないものがあるのだと思いました。

佐光:今回はレンズ性能を引き出すためにフィルターを使用せず、カメラの内蔵NDしか使用していませんし、非常にシンプルに撮っています。その中で基本的に良い芝居をする良い役者さんは、撮るだけで絵になるし、わざわざアップにする必要はないんですね。今回の「継」でも、石見神楽の演者さんの舞がすべてホンモノなので、ただそれだけ撮れば良かった。カメラの力、レンズの力、演者の力で成り立った作品ですね。今回は小細工もなにもしていないので、僕がやったのは機材の持ち運びくらいですから(笑)

小倉:レンズメーカーからすれば、レンズ性能に目がいくので、例えば神楽殿の中の梁の部分直線が、画角の角までまっすぐに延びて写っているのは非常に気持ちいいものです。撮影現場でもスライダーショットの映像を見ていて、カメラが移動しつつも建物の直線が画面のどこまでもまっすぐに延びて写っていくのには感動しました(笑)。

山下:今回の作品に携わって、4Kでもいままで見たことのないような上質な質感が表現出来るようになった、ということを実感しました。映画やドラマ作品では、リアルすぎる4Kの画質を嫌って、わざと画を汚したりすることもあります。それはもちろん作品の目指す世界観にもよりますが、このような映像を体験すると、もっと高解像度の本当のクオリティを活かした、気持ちのいい映像が作れる感じがしました。
SP座談会 3人

BTS Photo: 高橋拡三〈 e-motion photographers 〉
Studio Photo:貫井勇志