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1st View, 2nd Angle, 3rd Dimension-04

- “映像制作プロダクション”の世界基準 ~中から見るか? 外から見るか?~ -

Cutters Studios Tokyo

Ryan MCGUIRE(ライアン・マクガイヤー)
Cutters Studios Tokyo代表 兼 エディター

日本の大学を卒業しており、日本語も堪能。アメリカでエディターをしていたが、日本語をしゃべれることから、仕事で来日する機会が増える。そのうちに日本の映像業界を知るようになり、2012年にCutters Tokyoを設立。以来、CMを中心にクリエイティブな仕事を数多く手がける。
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Timo(ティモ)
エグゼクティブ・プロデューサー

Cutters Studios Tokyoの前は日本の制作会社にて国際プロデューサーとして、海外案件の製作に多く携わる。マクガイヤー氏のプレゼンに感銘を受け、会社の立ち上げから中心スタッフとして関わっている。Dictionary Films Tokyoでも、Peter Grasse(ピーター・グラス)氏とともにエグゼクティブ・プロデューサーを務めている。
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Cuttersが変えたもの

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ティモ: 日本でも優れたディレクターや、クリエイティブな方もいるのに、ポストプロダクションのやり方だけは海外とかなり違うと思います。日本は単に(編集マシンの)オペレーター的な方が多いのですが、アメリカだとポスプロの方はすごくクリエイティブなのです。この4 年半、日本でやってきて思うのは、やはり業界を一気に変えることはできない。ただ、Cuttersに何か変化や化学反応を期待して問い合わせ頂けるので、それはありがたいと思います。プロジェクト自体も、初期段階からクリエイティブなものが多かったりして、結果も出ています。業界が変化した、とまでは至っていないですけど、影響は出ているのではないかと思います。これは僕自身がただ自負しているだけかもしれませんが、Cutters Tokyoの立ち上げ前と今とでは、テレビの編集、カラーのレベルは確実に上がっている。僕はエディターではありませんが、おそらく、Cuttersの作品を見て、勉強してる人もいるのではないでしょうか?
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ライアン: “良い編集が良い”。そしてそれが効果的なことだっていうのに気付いたんだと思う。そしてそれを皆が求めるようになったんですよ。国内でエディターの腕が上がったとか、クオリティが上がったっていうより、意識そのものが上がったんだと思います。

コミュニケーション

ティモ: 今まで育ってきた環境をいきなり壊すのは難しい。何かを覚えるより、忘れる方が難しいと思うんですね。Cutters Tokyoは、メインエディター2人でスタートしたんですけど、できるだけゼロに近い、でもポテンシャルや気持ちがあるアシスタントを入れています。彼らを教えて育てていく、というのが僕らのやり方です。Cutters USAでも同じで、外から人を取って大きくしていくのではなく、内から人を育てて大きくしていくのです。そこで重要なのがインターン制です。うちは規模的にも大きくないので、いきなり面接して何かをやらせてっていうことではなく、インターンシップを通して技術ではなく僕らが思う正しいポスプロのあり方っていうものを肌で感じてもらうんです。また、6ヶ月間のインターンシップの後、卒業作品というのを作らせるようにしていて、それを作ることによって、何が変わったのかというのを、本人が実感できるようになる。僕らも6ヶ月間一緒にやることで、ポテンシャル、やる気、すべてにおいて総合的に判断がしやすくなるんです。

ライアン: 何よりもCuttersのインターンシップは、文化が中心だと思います。機材やソフト、編集の技術を覚えるというよりも、文化を覚えて、その中で成長できるかっていうトライアルになっているんですね。もちろん機材も触るし、卒業制作もあるし、他のプロダクションやマーケティングの手伝いもあるんですけど、何よりも、一階のラウンジで皿洗いをしたり、クライアントサービスの手伝いをしたり、その文化や周りの雰囲気を浴びてコミュニケーションの仕方を覚えることが一番重要だと思っているんです。エディターやカラーリストの人って、あんまり社交的ではない人が多いじゃないですか。でもこの業界はコミュニケーションが第一だから、その仕方を覚えることがとても重要だと思うし、Cuttersが教えられることがあるとすれば、それだけだと思うんです。機材や編集の技術はオンラインでもどこでも覚えられる。でも文化はここじゃないと覚えられない。Cuttersの文化は特別だと思います。

忘れていないか? 日本の“おもてなし”

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ライアン: ハリウッドはクライアントサービス(接客対応)は、とても重要なポジションですが、日本のポスプロにはそういう文化があまり見えてこない。日本は“おもてなしの国”として有名なはずなのに、ポスプロではそれをやらないのに驚きでした。実はこれもインターンの人にいつも話してるんですけど、クライアントサービスは何のためにやるのかというと、クライアントを単に喜ばせるためではないんですよね。彼らが喜んで、一緒にいい仕事をするためにやるんです。彼らがクリエイティブになれる環境作りなんですよ。

ティモ: それは仕事に関わるスタッフ全員が仕事に集中できるための、環境作りの一環なんだと思うんですよね。

ライアン: そう、楽しくできるように。楽しくなきゃ、絶対この業界でいい仕事はできない。

理想的なエディターは客との信頼から生まれる

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ライアン: 良いエディターの条件で最も需要なのは問題解決ができる人。センスがあるっていうのはもちろんで、センスがあって編集技術もあるのは最低条件。それ以上にコミュニケーションができ、問題解決ができる人、つまり自分の“ 編集を売る”ことができる人です。この、“ 編集を売る”というはお客さんが編集室に来た時に、納得出来る説明をできるという意味で、これが実は大事なことなのです。なんでこういう風にしたのかっていう説明ができないと、お客が不安になります。お客は編集のことが分からない場合が多いですが、発注元のクライアントから何か言われても「エディターがこういう理由でこのような作品にした」とお客さんが説明できるようにするんです。それが出来ないと、編集がいくら良くても、一番良い編集が買われない可能性があります。だから良い編集を作ることは最低限で、その“編集を売る”こと、つまりコミュニケーションをとって、それをコントロールをし、お客に安心してもらうことが大事なのです。でも最近の傾向は、スケジュールがどんどん短くなっていて、もっと出来ることは沢山あるのに、出来ないという不安感が増えていると思います。そこで重要になってくるのが、お客さんとの信頼関係なのです。

ティモ: その信頼関係があれば「基本からズレなければ、あとはお任せするよ」っていう信頼関係が生まれます。でもそれがないと、一番安易な方法に行きがちなんですよ。例えばCMの場合、最も悪い例は「商品を長く見せる」という手法です。他の解決方法があるかもしれないのに、面倒くさいのは嫌われるので。でもそれを嫌うなら信頼関係を築こうよ、ってことだと思うんですよね。そうなれば、同じ仕事量でももっと簡単に終わると思いますし、スケジュールにハマってくるとも思います。

それで良いのか?
責任回避が一番、良いモノを作るのは二番

ティモ: でも日本のポスプロの多くは、そこまでなぜか踏み込めない。日本も(第二次大戦)戦後の時代は、失うものがなかったからスゴくクリエイティブだったと思うんですよ。怖いものがないから、とりあえずやってみて、ダメだったら違うことをやればいいっていう精神があったんです。でも皆、数十年後にはそこに行きついてしまって、そこから守りに入ってしまったんだと思う。なんでこんなに根強く、ここまで守りに入る文化ができたのかっていうのが不思議で仕方がないんですけどね(笑)。

ライアン: 日本は企業の作り方に問題がありますよね。アメリカだったら、特にこの業界はよっぽど良い仕事をしなければそのうち仕事がなくなる=つまり、クビになるんです。でも日本では、よっぽどヒドイ仕事をしなければそのままずっと続けられる。その考え方、システムが変わらない限り、人も変わらない。いつも同じことを言ってるんですけど、今の東京の、特にこの業界の人たちは責任を避けることが一番の目的。良いものを作るのが二番。でもそのうち、小さなインディペンデントで、コンテンツを自分たちで作って、ネットチャンネルで配信する人たちが出てくると思う。それで、誰かが一発良いものを作るんだよね。それで、一回誰かがリスクを背負ってブレイクしたら、次の人が続くと思う。

編集の9割は、素材整理

ライアン: Cutters Tokyoでは多くのCMを手がけていますが、特に車のCMの編集は大変です。30秒、60秒CMで、走行シーンの素材が10時間ぐらいあったりする。そのちょうど良い部分を探しだすのが時間もかかるし難しいんです。キレイとか、カッコよく映ってるっていうことよりも、車の動きが重要なんですよ。カメラがあって、車が追っかけている場合は、カメラに近づいてなければ遅く見ええてしまう。だから、少しでも車がカメラに寄って距離を詰めている感じじゃないとダメなんです。そういうルールが分からないと無駄な時間が掛かります。素材の量の割に車のCMは時間が足りない。あと、メーカーによって、車の顔にすごくこだわっていたり、他のアングルのデザインが大事だとか、そういう個性を覚える必要もあります。10時間の素材はまだマシな方で、ディレクターによっては40時間を超える素材があったりします。でもその中の30分も使える素材はないんですが、それをすべて見て整理して、自分のセレクトシークエンスを作る。僕は編集の9割は、素材整理だと思ってます。素材を選び、整理する作業が9割です。

編集に秘められた可能性

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ライアン: 編集作業で最も重要なことはインパクト、そしてメッセージ性。CMは30秒や60秒しかないから、その中で代理店が伝えようとしているメッセージや、クライアントの目的を達成するために、最大限に30秒、60秒を使うことが僕の仕事です。編集はカッコいいものを作るのが目的ではなく、商品を動かし、ブランドイメージを上げるものだと思っています。編集ですべてが変わるのです。例えば、商品を長く見せることによって商品の印象が良くなる可能性もありますが、逆に商品の前のカットを伸ばして、間を作った方が、印象が良くなることもあります。編集は奥が深いんです。やっぱり時間をかけてやった方がいいし。料理で例えるならば編集はシェフの仕事だと思うんですよね。色んな素材を組み合わせて、新しい可能性を作る。元々その素材になかった良さを生み出して、新しいものを作るチャンスが、編集にあると思います。撮影で失敗して、良い素材が撮れなかったとしても、エディターはそれで新しいソリューションを生み出すことができる。というか、その新しいソリューションを見い出すことこそが、エディターの仕事だと思っています。

Cutters Studios Tokyo

http://cutterstokyo.com
http://dictionarytokyo.com

PHOTOGRAPHER: 高橋 ケンイチ