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大森信幸氏「VRと演劇を融合した新しい演出・表現をめざす」

- イナカ都市主宰・脚本家・VR映像作家・演出家・俳優  -

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昨年の10月に旗揚げ公演「イチコの一生」を開催したイナカ都市は「VR×演劇企画ユニット」という新しい発想で、脚本家であり俳優、さらにはVR映像制作も担当する大森信幸氏が主宰する。同氏が制作したVR作品「1K」は、昨年10月の4K・VR徳島映画祭2018で正式招待上映され、人気を博した。大森氏はVRと演劇に共通点を見いだし、それを生かした新たな表現・演出を試みている。

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作品は、DMM VR360Channelでも配信されており、演劇をベースにした新たな収益モデルとしても期待がかかる。VRと演劇の共通点や具体的な試み、さらに今後の展開などについて、大森氏(=下写真)に聞いた。

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■アパートの一室での”青春VRドラマ”「1K」

昨年の4K・VR徳島映画祭2018で正式招待上映となったVR作品「1K」(=下写真)は、制作者であり監督の大森信幸氏が、自ら7年間過ごしたアパートで起きたさまざまな出来事を集約した私小説的な作品だ。

部屋の中心に固定された360度カメラの視点から、部屋で繰り広げられる友人や恋人との出会いや別れなど、部屋での出来事から、主人公の青春時代に起きたことを追体験し、主人公の成長の過程をたどる。

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「自宅の引っ越しの際に何か記念になる作品をと考えて制作をした」という大森氏。「友人との出会いや失恋、仕事のことなど、東京に上京してから過ごした、さまざまなできごとを、自身の部屋でのできごとに集約している」(大森氏)。

360度の視野でドラマが展開するVRドラマならではの演出もあり、また単なる青春ドラマではなく、エンディング後の映像を見るとVRならではの仕掛けが施されている。「せっかくの360度という視野を持ったVR空間なので、視野以外のところを見る動機をつくりたいと思った。360度の意味を見いだそうとした」という。(下2点=「1K」より)

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大森氏は、もともと役者の経験を持ち、現在も役者として活動を続ける。同時に、九州朝日放送のラジオドラマ「北方謙三 水滸伝」のシナリオ制作を担当したなど、シナリオライターとしてドラマや演劇に関わりながら、ソーシャルゲームのプランナーとしても活動をしてきた。

そうした活動の中で、当時最新のHMD(ヘッド・マウント・ディスプレー)として注目された「Oculus Rift」(オキュラスリフト)を体験する機会を得たのが、映像作家としてVRのコンテンツ制作に携わるきっかけとなったという。

■演劇の演出技法をVRで

「演出の立場から見ると、360度の視野で体験するVRのドラマは、舞台と共通する点が多い。演劇では、舞台上で複数の役者が同時進行で演技を進めていく。その中で、セリフや音、身振りなどで観客の注意・視線をリードしていく。VRも同様に、360度の空間のどこかで進んでいくドラマの中で、視線を集めるための演出的な工夫が必要になる。そこに演劇の演出を生かせるのではないかと考えた」(大森氏)

自らVRのコンテンツをつくろうと思い立ち、在籍していたソーシャルゲームの会社で、VRの勉強会を重ね、映像編集ツールなどの使い方を覚える。 その後、重病の父親に、自らの作品を制作して見せたいという思いから、会社を退職してVR作品の制作を始めた。

こうして完成した大森氏の初作品が「お通夜」「泣き屋」の連作2作品だ。リコーの360度カメラ「THETA S」で360度映像を撮影。音声収録にはZoom社のH2nを用いて、スペーシャルオーディオシステムを採用している。(下写真=「お通夜」より)

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2作品に共通しているのは、視点が幽霊の視点という部分だ。VR映像はその空間内で自分の体を見ることができないことからも、幽霊はピッタリの発想かもしれない。

「VRカメラは360度という広範囲をカバーするため、通常のカメラでは十分な画素数でも、画質が粗くなってしまう。それを逆手にとって、浮遊する幽霊の視点という設定にして、幽霊の主観から物語を展開している」(大森氏)

「お通夜」は、音信不通だった姉が外国人の旦那を連れて五年ぶりに現れ、家族間に大きな変化が起きるという寸劇で、長編作品の第一部を想定した体裁。また「泣き屋」は、実際に存在する泣き屋という風習をテーマにしたトリオコントという体裁になっている。(下写真=「泣き屋」より)

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■VRで小劇場を楽しむ

大森氏はこの作品をきっかけに、VRと演劇をかけあわせた企画ユニット「イナカ都市」をたちあげる。「イナカ都市」は大森氏を主宰者とし、企画ごとに大森氏がプロデュース形式で出演者を集め、作品を創作する形式をとる。

 大森氏は、イナカ都市のサイトで「VRカメラで新しい演劇の形をテーマに、作品ごとにプロデュース形式で出演者を集め、作品を創作します」とねらいを綴っている。

イナカ都市の旗揚げ公演「イチコの一生」は、昨年10月26日、東京・三鷹で開催された。「イチコの一生」では、8Kの360度カメラを客席最前列に設置して撮影した。これは、視聴者に「小劇場で客席に座って、演劇を楽しむ空気感や役者との距離感を楽しんでもらいたい」という考えからだ。 (下写真=「イチコの一生」より)

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また客席には段ボール製のVR用ゴーグルが置かれ、公演開始前に、プロローグとなるVR映像を楽しむことができる。それは、主人公イチコの一生を、まるで走馬燈のように駆け足で見せる映像で、イチコが今、まさに死の直前にいることや、その一生における体験を垣間見ることができ、実際の舞台につなげている。VRと演劇が融合した新しいエンターテインメントを感じさせる作品だ。

■距離感でセリフの強弱に違い

VRと舞台の共通部分を意識してVR制作を始めた大森氏だが、逆にVRと舞台の違いについても演出面で利用している。「VRからの視野は、舞台よりも近くで出演者と対峙する。その距離感は、物語の中で当事者としての間隔を持たせることができる。カメラの位置によっては、引いてみせたときと近くで見せるときのセリフの量や演出を使い分けている。 例えば、目の前で話を聞いていると、くどい言い回しが意外とおもしろかったりするので、視聴者との距離によってセリフの流れや言い回しを変えている」(大森氏)

(下写真=「イチコの一生」より)

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■VRで演劇ビジネスに新たなビジネススキームも

VRドラマ「1K」と「イチコの一生」は、現在もDMM VR360Channelで有料配信されている。こうした収益源が多様化することも、大森氏がイナカ都市を立ち上げようとした動機となっている。

「小劇場などで活動する役者の多くは、収入が不安定で生活のためにアルバイトをする人も少なくない。VRコンテンツとの連動で、小劇場のおもしろさを知ってもらい、実際に劇場に足を運んでもらいたいという思いとともに、ネットを介してVRドラマがコンテンツの定番として成長させ、役者の活躍の場が増えるようにしたい」と意欲を語る。(下写真=「イチコの一生」より)

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イナカ都市では現在、全天球映像作家「渡邊課」の課長 渡邊徹氏と、VRカメラによるシチュエーションコメディドラマを今年の4-5月の発表へ向け、制作中という。舞台演劇とVRを融合させつつ、それぞれの特徴を生かした新たな表現手段であるとともに、コンテンツビジネスの新たなスタイルを感じさせるイナカ都市。

大森氏によるVRと演劇を融合した新しいコンテンツ制作の挑戦はクリエイターや若手の役者を巻き込んで、さらに続く。

(HOTSHOT 編集部 小林直樹)

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