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多国籍スタッフ、3カ国でロケ撮影

- 映画「一万キロの約束」の現場から学んだこと -

芳賀弘之 / 撮影監督

UP

台湾作品「1万キロの約束(原題:一萬公里的約定)」が、今年(2017年)3月3日〜12日で大阪で開催される第12回大阪アジアン映画祭のコンペ部門に出品される。最近では、マーティン・スコセッシ監督の映画「沈黙 – サイレンス」(2017年1月 日本公開)が台湾で、また日本でも4月14日から公開のマット・デイモン主演、チャン・イーモウ監督の「グレート・ウォール」が中国で撮影されたりと、ハリウッド作品が中国ないしは台湾でも盛んに撮影されている。
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「1万キロの約束」は、台湾・中国・ハリウッド(米国)の3カ国で撮影。撮影を担当したのは、本作の監督であるサイモン・ハンがハリウッドで何度も撮影を共にし、2013年にハリウッド長編映画「バトル・オブ・スカイアーク(Lionsgate配給)」でも一緒に仕事をした経験もあるLA在住の日本人撮影監督、芳賀弘之氏を指名。
 近年、日本の撮影現場でも増えている多国籍スタッフでの映画制作。国や地域が異なればやはり撮影や制作のスタイルも異なる。しかし、だからこその新発見やそこから新たに生まれる技法もある。国境や人種を越えた撮影現場から見えて来た、マルチ文化の撮影現場から学ぶこととは何か?

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多国籍クルーから学ぶ、現場の成長

「予算の関係上、ハリウッドから連れていける人材は限られていて、台湾では獲得の難しい人材を優先して、ステディカム・照明技師・DITを連れて行く事にしました。DITは信頼している日本でも活躍されている先輩にお願いしてきてもらう事になりました。他のスタッフは全員現地スタッフ、中にはバイリンガルのスタッフもいて、台湾・中国・アメリカ・日本の融合チームで私も初めての試みでした。何度か撮影手法や段取りの違いで軋轢も生まれました。例えば、台湾や中国では、安全性よりカメラを回すまでの準備をいかに速く出来るかが重要視されます。アメリカではいかに安全で合理的かが最も大事です。今回の現場でもハリウッドの撮影技師は何度か粘着テープで固定しようとしている軽い照明機材に対して、やり直しを要求したのですが、そこで意見が分かれて話し合いになりました。他にはステディカムをトラックの後ろに取り付けて、役者が走っているショットを前からのトラッキングする時に、トラックの運転手が下手で、何度か急ブレーキをかけてカメラがぐるんと揺れたのです。これにはステディカム・オペレーターが憤怒して、一瞬即発でした。通常は、きちんとリハーサルをして掛け声等を決めて、安全に撮るのですが日没間近で光量の関係から急いでいたこともあり、手順の確認が抜けていたんですね。こうした発展途上な撮影が時々見られる現場だったのですが、昨今のハリウッドを始め、海外映画等の撮影が入ってきている台湾では、かなりハリウッドを意識した向上心を見てとれる変化も同時に感じ取れました。中国でもこの撮影の後、2作品やらせて頂いていてもっと保守的でしたので、台湾は例えば、2nd カメアシがカチンコをする、DPシステムの確立等、通常ハリウッドでする撮影と何も違和感なく撮影が進めらていたのだと気付きました。台湾映画の撮影監督を牽引するリーピン・ビンに師事している助手も来てくれたのですが、多くの海外で経験された先輩方のやり方を伝えていく、そんな柔軟性を台湾では見て取れました。」

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アナモフィック撮影

「レンズは今回、メインでCooke Anamophic Lensを使わせて頂いて、中国ではCookeのレンズが獲得困難という理由からCarl Zeiss Master Anamophicを使わせて頂きました。お陰で、特性の違いも体現出来たので有り難かったです。Cookeアナモは歪みが大きいクラシックな雰囲気も残しつつ、HD撮影に耐えうる解像度もあります。その画が九份(キュウフン)という古めかしいロケ地にマッチして、懐かしさ漂う画が撮れました。 DITの先輩からは、『昔の台湾映画の撮り方とか勉強したの?』と言われる程、味のある画が撮れたと思います。それに、私も監督もCookeの見た目が好きなのでそういった意味でも最善の選択だったと思います。ただ、32mmの周辺ボケが凄くてヘッドルームを攻めすぎると頭がボケるという驚きもあったのですが(笑)逆に、中国ではチベット近くの青海省というロケ地で、大きくて目の冴える様な湖・緑・砂漠が360度広がっている ロケ地でしたので、Master Anamophicの周辺ボケの少ない、素直な色味と丁度いい塩梅のハイコントラストのレンズの特徴が綺麗な背景に上手くはまりました。他には、通常ハリウッドではアナモルフィックで撮っても最終的にサイドを切って2.35:1か2.39:1のアスペクト比にするのですが、監督の要望で、スーパーワイドな2.66:1のまま出したいとの事で、人物の構図と共に背景の構図や引きで見せる画を意識してとる事になりました。寄りの世界が好きな監督だったので、そのせめぎ合いが大変かつ楽しかった思い出です。」

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マルチ文化だからこそ得られるもの

「この映画では、3カ国をまたいでのプロジェクトでしたので、総勢400名以上の方々と共に撮影に臨みました。文化の違い・言葉の壁等 大変な問題が沢山ありましたが、そこは経験則で補ったり、いい画を撮りたいという熱意に答えようとする各々の努力がそんな問題を超えてくれました。それはその後の2度の中国での撮影でも大いに感じられました。最終的には照明機材の名前や言い方やレンズのサイズ、カメラ周辺のアクセサリの単語を中国語で言えるように勉強しましたが(笑) こうしたマルチ文化における撮影では、各々が別の場所で今まで得てきた全く違う経験を持ち合って、切磋琢磨出来る点や、言葉を超えた共通点を再理解して阿吽の呼吸で動けた時の喜びを共有出来る点などがなんとも言えず心地いいですね。」

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積極的な技術交流が新たな作品を生む

「中国での撮影に言及すると、マット・デイモン主演の映画『グレートウォール』で中国現地での照明技師の1人として参加していた友人も来てくれたので、私も現場で彼から違った照明技法や現地での嗜好を学ぶ事が出来ました。最近の中国は、ハリウッドよりも多くの撮影が次から次へとひっきりなしに起こっています。今やトップ俳優・女優のギャラはハリウッドのトップに並ぶ程です。そういった勢いの中、多くの若者が夢に馳せて、1年の内1週間も自宅に帰らず、現場・ロケ地移動の生活を送っているスタッフも結構いました。そんな中で、海外からの撮影監督を呼んで、違った風でもっと中国映画を活性化させたいという思いも感じられ、いい刺激も得られました。今後、映像のグローバル化はもっと進むと思います。色んな背景をもったミックス・カルチャーの新しい映画人が出てきて映画界がもっと面白くなっていって、私もその一員として精進していきたいと切に思いました。」

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《プロフィール》

芳賀 弘之(はが ひろゆき)
撮影監督・IATSE Local 600 Director of Photography所属
Web Site: http://www.hirohdp.com

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19歳の時、TNC(テレビ西日本・フジテレビ系列)で、カメラアシスタント2年 の経験を経て、単身渡米し、JSC(日本映画撮影監督協会)や、ASC(The American Society of Cinematographer)の先輩方の助手やカメラオペレーターの経験をへて、 2011年に独立し、CM・プロモーションビデオ(ミュージックビデオ)・長編映 画等をアメリカ・カナダ・メキシコ・台湾・中国等グローバルに、フリーランスの 撮影監督として働いる。
代表作の内、ミュージックビデオは、アメリカのMTVやNickelodeon/ディズニーの公式アーティストのものであったり、CM では、Panasonic や YAMAHA、資生堂の作品も携わる。長編映画の「バトル・オブ・スカイアーク」は、元々短編がカンヌ映画祭で注目を浴び、2年前 Lions Gate から配給され、昨年は、台湾のスター「ジェイ・チョウ」がプロデューサーを務める「1万キロの約束」では初の大作映画の撮影監督を担当。過去の作品は、アメリカだけでなく、ヨーロッパや西アジア・東アジア等で広い範囲で劇場公開されている。

《作品情報》
題名「1万キロの約束(原題:一万公里的約定、英題:10,000 miles)」
2016年、台湾、104分
監督:サイモン・ハン(洪昇揚)

過酷なウルトラマラソン選手に憧れを抱く高校生のケビンが、夢を諦め人道を外れてしまった兄や辛い過去があるマラソンコーチへ抱く恋心にも翻弄される青春を通して成長をしていくヒューマンドラマ。実際に台湾でも有名なウルトラマラソン選手のケビン・リン(林義傑)の実体験も踏まえつつ、フィクションを加えた作品。

Web Site: https://www.facebook.com/10000milesmovie/
Trailer: https://www.youtube.com/watch?v=f0KdzIg-2Zs