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誰も見たことのない景色

issue012_column01_body001ここ最近、個人的にアナログなものへの憧れが強くなっている。私だけでなく世の中の風潮もそういうことに期待感が高まっているのではないか?

この夏、ラスベガスでシルク・ド・ソレイユのショー「KÀ」を見た。

2004年から15年続いているこのショー、私自身、実は「KÀ」が大好きで、仕事でよく訪れるラスベガスでの楽しみの一つとして、すでに過去6回ほど観劇している。圧巻は製作費約160億円をかけた大掛かりな舞台装置による演出で、日本でも時々行われるシルク・ドゥ・ソレイユのテントサーカスとは一線を画す壮大なスケールなのだ。今回は幸運にもなんとその舞台の裏側を見学できる機会を得た。

驚いたのは見学の際にカメラやビデオでの撮影が完全にフリーだったこと。撮影NGのところは?との問いにも「特にないよ」と気楽に応えるスタッフ。そうなのだ、要は舞台装置の写真を撮ったくらいの表面的なことで、何かを盗む、もしくはコピーできるような安っぽいクリエイティブではない。世界から選ばれた毎日鍛錬を積み重ねた70名の精鋭キャスト、それを支える200名の専門スタッフ、それに世界一の演劇舞台装置が組み合わさることで、この壮大な演目「KÀ」が成立しているのである。そしてこの素晴らしいステージを続けることができるのは、これを支える人間業、つまり切磋琢磨されたアナログの力があってこそなのである。

要はいくらデジタル的な最新技術で数字を積み重ねたとしても、それを使いこなす人間の業が磨かれていなければ、誰も見たことがないような新たなクリエイティブなど生まれない、のである。

映像業界では今年の夏、また新たな革命が起きようとしている。シグマからSIGMA fpという新たなカメラが登場した。我々プレスがこうした新製品発表の場で喝采を送ることは、残念ながら最近ほとんど無くなった。それはほとんどの新しい機材や技術が、単に数字的スペックを更新し、トレンドに合わせただけのものに過ぎない製品が多くなってきたからだ。しかしこのfpには、単に数字の積み重ねではない、ものづくりの人間業の粋を極めたプロダクトとしての結晶が形に現れていた。実際に7月11日の発表会場にはそれを讃える喝采が沸き起こったのである。シグマという会社の理念やものづくりの考え方については、ぜひ前号の記事を読んで頂ければと思う。

正直、SIGMA fpの本当の実力はまだわからない。だがしかし、まだまだ日本の創造力と技術が大いに期待できること、そしてまた一つ、まだ誰も見たことのない景色を見せてもらった気がして心底嬉しかった。

かのスティーブ・ジョブズの名言「美しい女性を口説こうと思った時、ライバルの男がバラの花を10本贈ったら、君は15本贈るのか?そう思った時点で君の負けだ。ライバルが何をしようと関係ない。彼女が本当に何を望んでいるのかを見極めることが重要だ」

まさにその通り、何かを生み出そうとするとき、あなたは単にバラの本数を増やそうとだけしていないか?もう一度注意してみることが肝心だ。