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マイケル・チオーニ 来日インタビュー

2011年公開のデビッド・フィンチャー監督作品「ドラゴンタトゥーの女」で、RED ONE /EPIC CameraのRAWデータを使用して、当時はまだ一般的でなかった5Kから4Kシネスコサイズの切り出しやiTunes(Podcast)を使った革命的なデイリーシステムの導入など、現在の先端デジタルシネマ・ワークフローを牽引し続けてきたマイケル・チオーニ氏。 待望の来日が2018年秋に実現し、単独インタビュー取材に応えて頂いた。いまマイケル氏が見つめるデジタルシネマの未来とは?
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カラーグレーディングやDIワークフローの世界で、非常に有名なマイケルさんですが、いまは何をメインに活動されているのでしょうか?

いまは、パナビジョンとLIGHT IRONでイノベーションのシニアヴァイスプレジデントとして働いています。LIGHT IRONは私と弟のピーターが始めた会社で、カラーコレクションとポストプロダクションのクリエイティブサービスを行なっています。パナビジョンでは、主に市場のトレンドを見極め、新しいテクノロジーは何か、誰が台頭してくるか、映画を良くするためにシネマトグラファーやエディターをどのようにサポートできるかをイノベーションチームとともに研究しています。一言で表すと、「ワークフロー」。私のパッションはみなさんにより良いワークフローを提供することにあります。

マイケルさんが定義する「ワークフロー」とは?

世界はとても複雑です。映画作りについても、様々なパーツからできており、容易ではありません。ですが、そのパーツ同士を一つに繋げるのが私の仕事なのです。ここで、「ワークフロー」の定義を話しておきたいと思います。「ワークフロー」はまさにコネクション。例えば、私たちの身体には骨があります。骨は硬く、それ自体では動けません。しかし、それらを繋ぐ靭帯があるから、自由に動くことができます。骨は、プロデューサー、監督、撮影監督といった人々で、靭帯はまさに彼らを繋ぐワークフローと言えるでしょう。しかし、注意しなければならないのは、世間では、「これがワークフローだ」と一つのワークフローに限定させようとします。強制的に人々を同じものにはめてしまうのです。大事なことは、それぞれがそれぞれであること。それには、自分自身のワークフローを持ちつつ、それがきちんと機能しているかを見極めることが重要です。それがキーなのです。

初来日ということで、日本の印象はどうですか?

長らく日本のファンでしたが、実際に足を運ぶチャンスがありませんでした。その代わり、多くの日本の友だちがロサンゼルスに来てくれたり、ラスベガスで行われるNAB Showで会ったりしていたので、ここ15年間で、すでに日本人のことをよく知っている気がします。しかし、ようやく私の方から行くことができ、とても嬉しいですね。東京はとても美しい街で、ニューヨークを彷彿させますよ。昔ニューヨークにも住んでいたのですが、とても似ているんです。でもこちらの方が綺麗ですね。そこが大きな違いです(笑)。

日本の映像業界について、連想することは何でしょうか?

多くのテクノロジーが日本で生まれ、世界中で使用されています。とても興味深いことですね。多くの人々は気づいていないかもしれませんが、日本特有のテクノロジーはたくさんの国で使われています。長い間、日本のテクノロジーに違う文化の国々が投資をしているので、世界中の人々がソニーやパナソニック、東芝の製品を買っているんですね。

ただ問題は、特定の文化的なものは、国内で機能しても、国外では機能しないことがあるのです。例えば、キヤノン、富士フイルム、ニコン、ソニー、パナソニックといった日本メーカーのメニューシステムはどれも非常によく似ています。しかし、西洋諸国では違ったメニューシステムです。初めは、私たち西側諸国はメニューに関して日本から学びました。しかし、それが日本文化、もとい、アジア諸国の人たちが理解しているメニューシステムだということに気づかなかったのです。なので、私たちはそのシステムに馴染めませんでした。その内に、カリフォルニアがコンピューター形式のテクノロジー会社を立ち上げ始め、独自のメニューシステムに変えていきました。アップルを例にとると、メニューコントロールの方法は日本のものと全く違います。アップルは新しいメニューを提示し、人々はその世界観に魅了されていきました。それが「ドック」です。ドックは今までとは全く違うアクセス方法で、時代の大きな波となりました。面白いのが、いま、特にソニーとパナソニックが西洋的なメニューシステムに変わってきています。小さなことのように思えるかもしれませんが、実はこれはかなり大きな変化なのです。

ただ、長く同じことをやっている人や、その作業が完璧だと思っている人は、「メニューがなぜそんなに重要なのか?」と思うでしょう。しかし、大きな問題です。どんな小さなことでも重要で、全ての要素がよくなる可能性を秘めているのです。心をオープンにさせておく必要があります。またそれは、競争によって生まれるのです。他の国や他の会社との競争は、改革の機会となります。そこからイノベーションが生まれるのです。そして私たちはその競争に勝ってきました。メニューシステムがその人の考えていることに沿って作られているのは非常に面白い発見ですね。「日本人が考えていることはこうだ」と言っても、他の国は違う風に考えているんですよね。

ある人は「4Kはいらない」と言うし、多くの人は「8Kなんてなんでいるの?」と思っているでしょう。中には「4Kや8Kは扱いが大変だし、費用もかかるから無理だ」と言います。しかし、4Kや8Kが扱えない理由なんてないのです。というのは、私みたいな人たちがHDよりも簡単に扱えるように改革していっているからなんです。私の8KワールドはHDよりも簡単ですよ。HDでは、ビデオレコーダーやVTR、ケーブル等色んなものが必要でしたが、今はiMacさえあれば十分です。毎日iMac一台で8K素材を扱っていますよ。とてもシンプルです。そして、4Kや8Kが無理だと思うのは、ワークフローが破綻しているからなんです。ワークフローが機能していると思えるように、もっと靭帯(ワークフロー)が必要ですし、教育もしていかなくてはいけません。教育はいま、メーカーの大きな仕事の一つです。教育はお金になりにくく、誰もお金を払って教育を受けたいとは思わないので、お金をとることなく、教育する術を見つけないといけないんですよね。

Light Ironがパナビジョンと一緒になったのは3年前のことですが、これはマイケルさんにとって、どのような意味があったのでしょうか?

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2015年、パナビジョンが65年間、カスタマーに提供し続けてきた「ベストサービス」のため、LIGHT IRONを買収しました。それまで、「ベストサービス」というのは、カメラやレンズ、アクセサリーといったハードウェアのことで、パナビジョンは照明やクレーン会社も所有していました。それがカメラクルーにとって必要なものだったからです。しかし、いま彼らが必要としているのは良いワークフローなのです。もはやカメラやレンズではありません。それはどこでも手に入るようになってしまったのです。そうしたところから、パナビジョンはワークフローを向上させるため、ワークフロー会社を買収することにしました。Light Ironはカラーコレクションの会社として知られていますが、そもそもはワークフローの会社なんですよ。

良いカラリストは世の中にたくさんいます。しかし、良いカラリストを素晴らしいカラリストにするのは、彼らを取り巻く環境なのです。LIGHT IRONにいるカラリストが素晴らしいのは、チームだからです。ワークフローが機能しているんですね。色のことだけではなく、全体のワークフローを基準に動いているので、良い仕事、迅速な対応ができるのです。パナビジョンはそうしたことをビジネスに取り込みたかった。実際に、カスタマーのみなさんには良いワークフローを提供できたと思いますよ。それが全ての向上に繋がっていると思います。良いワークフローで現場やポストができると、映画も良くなるんですよね。

いま興味を持っている技術や機材について教えてください。

みんながAIについて話していますよね。多くの人が、AIがどうコンシューマーに機能するかを理解し始めていますし、すでに多くの素晴らしいアプリケーションがあります。しかし、プロダクションではどのように使えるでしょうか?映画にどう活かせるでしょうか?いくつかアイディアがありますが、プロダクションに対して、AIをコントロールし使用することは非常に有益だと思いますね。いま、そこに着目しています。そして、私が見ているのは、2022年に人々がどのように映画製作をしているかなんです。今から4年先の未来です。5Gネットワークが世界中に広まるので、今とは全く違うものとなるでしょう。5Gは安価で、高周波数帯で、Wi-Fiもいりません。映像を世界中どこへでも飛ばせるので、可能性が大きく変わると思います。もはや衛星やFedExに頼る必要はないのです。

2006年のEFILMで、ビル・フェイトナー氏が「映画の色は1人の人間が決めるべきだ」という言葉を残していましたが、マイケルさんはこの言葉をどう受け止めますか?

ビルは良き友人であり、私よりもずっとスマートな人です!でも、2006年の彼の言葉は、2020年には適用できないでしょう。全てが異なり、変化しているのですから。かつて、映画の色は劇場用、テレビ用、そして機内用のみを用意すれば良かったですし、それらの色に違いはあまりありませんでした。しかし今日では、携帯用、テレビ用、HD用、4K用、HDR用、劇場用といった100通りものバージョンが必要になっているのです。ディスプレイのテクノロジーがどんどん変わっているので、色も変えなければなりません。そこで、私たちはシネマトグラファーに、もはや一つのマスターはないということを伝えています。かつては一つでしたけどね。みんな、一つのマスターがあって、そこから派生していくと考えがちですが、それはもう、今や機能しないのです。

好きな映画やコンテンツはありますか?

実はあまり見ません。HBOやNetflixもほとんど見ないんです。好きなのはドキュメンタリーです。おそらく、仕事のほとんどがフィクションの世界のことなので、プライベートではノンフィクションを見たいんだと思います。リアルストーリーが面白いですよね。例えば、金を発掘するとか、魚釣りとか、事件を解決するとか、そうしたドキュメンタリーやリアリティーショーが好きなんです。クオリティーは高くないし、映像自体もあまり良くはないですが、リアルな人たちが写っている。そういうものが個人的には好きですね。

パナソニックのVARICAMやソニーVENICE、キヤノンのC700、ARRIのALEXA LFといったシネマカメラの立ち位置について、どう思われますか?

VARICAMの立ち位置は非常に重要です。4Kを含めた3つのフォーマットで同時収録できるカメラを打ち出し、驚かせました。4K、2K、1Kを収録できます。つまり、高品質のファイルと、編集用のファイル、ウェブ用のファイルを一気に作り出せるということです。ただ、多くの人たちはVARICAMに走りませんでした。しかしながら、パナソニックが新しい技術とトレンドを生み出したのは確かなのです。今では、複数のフォーマットで収録することが必要だとみんなが理解し始めています。また、トランスコードファイルも一般的になってきました。このカメラでは、Wi-Fiや5Gを使ってできますし、1Kのファイルを携帯電話にストリーミングすることも可能です。そういう意味で、VARICAMは壁を一つ突破したのです。さらに、VARICAMの構造では、4つのフォーマットで同時収録することも可能になるでしょう。まだ一般的ではないですが、RAW、RGB4K、2K、1Kを同時収録できる可能性を秘めています。

また、VARICAMは高感度カメラでもあります。現場での時間を短縮したければ、照明のセッティング時間を短縮すべきですが、私が言いたいのは照明を少なくしろということではありません。良い映像を作り出すためには、照明は必須です。ただ、このカメラだとベースの明るさを十分にしなくても問題ないのです。低照度の場所でも機能しますし、むしろその方が、コントロールが簡単で早くセッティングできる時もあります。ISO5000というのは、照明が必要ないのではなく、照明にかける人員を減らすことができるということなのです。さらなる高感度カメラがトレンドとなるでしょうね。

ただ、今日のカメラは全て、素晴らしいけれど同じ映像が撮れます。「このカメラが一番良く撮れる。他のカメラよりも良い」というような意見を聞くことがあるかもしれませんが、それは間違っています。というのも、センサーを作っているメーカーは限られていますし、基本的に全てのカメラは同じセンサー技術とダイナミックレンジを使っています。何より、センサー自体は黒か白かで、色はセンサーとは別のところで生み出されるのです。時々、「アレクサだとカラーコレクションがやり易い」と言う声を聞きますが、私も、私のチームも理解できません。意味を成していないのです。トヨタより日産の方が簡単に運転できると言っているのと同じです。そんなことないでしょう。違いはほとんどありませんよ。いつも、一つのカメラが他のより良いとか簡単だという意見に困惑してしまうのです。では、センサーも色もダイナミックレンジも同じなら、違いはどこで生まれるのか?それは光学部分にあるのです。レンズが個性を生み出しているのです。

解像度が進んでいった先で、「見えすぎ」に対して気にしなければならない時がくると思いますか?

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いわゆる、「YouTube世代」と同じように考えなければなりません。ある人たちはいまの世代に向けて映像を作り、ある人たちは未来の世代に向けて映像をつくります。2000年以降に生まれた人たちは、それ以前の人たちとは違った考え、違った働き方、違った演出、違った撮影をします。2030年のシネマトグラファーは、スマホで撮影するのが通常かもしれませんしね。全ての世代が同じ映像に対して少しずつ違った見方をしています。音楽を聞くことに対しても同じことが言えますよね。服装もそうですし、好みも違います。もうすでに、若い世代がそれを教えてくれているのだと思います。

新しい計画でなにか面白いプランがありますか?

今現在、色んな開発や始動中の計画がたくさんあります。AIもその内の一つですし、ワークフローは常にその一つです。物事がどうなるのかを予想しなければならないんです。残念なことですが、今の世代に何が必要かを聞くことはもう遅いんですよ。彼らが今後、何を必要とするかを考えなければならない。それは非常に大変なことですし、お金もかかるし、大きなリスクもあります。しかし、そうしたことがいつも、私をエキサイトさせてくれるんですよね。

ここ10年間の4Kへの動きは、11Kやそれ以上への序章だと思います。5、6、7、8Kは繋ぎです。ラージフォーマットや超高解像度になればなるほど、映像はスムーズに、そして拡大されていきます。今日、私たちが写真で見るような世界、スクリーンから浮かび上がってくるような世界を映像で見れるようになるのです。作り手の中には、「フォーカスが大変になる」という人もいるでしょう。その通りですが、私たちにはテクノロジーがあります。そればかりか、それに対して投資をしたり、利益を得たりするチャンスにもなるのです。私は11Kとフルフレームセンサーが次のビックウェーブになると思いますよ!SonyのVENICE、Canonの C700、ARRIのALEXA LF、REDのMONSTRO 8K VVといったカメラが、次の時代へと引っ張っていくことでしょう。

カメラ:安本 奈緒子