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「旅するダンボール」SXSW参戦レポート

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©Ryusuke Okajima
毎年3月に米テキサス州オースティンで開催されるSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)いま世界で最も注目される映画祭に、今年も日本人クリエイターの作品が出品された。実際にステージに立つ側から見えた、SXSWの風景とは?
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©2018 pictures dept. All Rights Reserved.
「旅するダンボール/From All Corners」
2018年全国劇場公開予定
出演:島津冬樹(CARTON)監督:岡島龍介
製作・配給:ピクチャーズデプト
公式サイトはこちら

SXSWノミネート発表

日本人初の快挙

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©Ryusuke Okajima
ダンボールアーティストの島津冬樹氏を2年半にわたり取材をしたドキュメンタリー映画「From All Corners」(93分。邦題「旅するダンボール」)が、アメリカ最大級のフィルムフェスティバル「サウス・バイ・サウス・ウェスト(SXSW)2018」のドキュメンタリースポットライト部門に正式出品された。スポットライト部門とは、世界中から新作長編ドキュメンタリーが集められる中でも注目作品にスポットライトを当てるという趣旨で集められた部門だ。
プロデュースを手掛けたピクチャーズデプトの汐巻裕子氏は2013年の濱田岳主演「SAKE-BOM(サケボム)」でSXSWに正式出品の実績がある。今回がプロデュース作として2本目のノミネートであり、日本人では初の快挙となる。映画製作中も私たち制作陣をまとめ上げ、根気強く引っ張ってくれた。

アップサイクルとは

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©2018 pictures dept. All Rights Reserved.
作品のメインサブジェクトである島津氏は、27か国をわたり歩き、街角に捨ててある段ボールを収集し、実用性とデザイン性を兼ね備えた財布に作り直すといういわゆる「アップサイクル」という新しいジャンルの活動をしている。ゴミ同然のものに新しい価値を見出すというアップサイクルのプロセスは世界で注目を集めているソーシャルカテゴリーといえる。
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©2018 pictures dept. All Rights Reserved.
映画では、偶然拾った徳之島産じゃがいもの段ボールを財布に作り替え、じゃがいもの生産者や段ボールをデザインした人に財布をプレゼントする「里帰りプロジェクト」を遂行する。道中、彼はこの段ボールに関わったいろいろな人々と出会う。なぜ彼がこのような活動をしているのか? なぜ段ボールに惹かれているのか? 財布をもらった方々はどのような反応をみせたのか? そして彼の活動がなぜ世界から注目されているのか? を、笑いあり、涙ありの成長記録としてまとめた。

EOS 5D MarkIIをメインカメラに

「旅するダンボール」は、監督、撮影、編集、グレーディングを私一人で担当した。ドキュメンタリーのため機動性を重視し、撮影時は必要最低限の機材にした。Canon EOS 5D MarkⅡのソフトで温かい感じが好きで、本作の雰囲気に合っていると思い、メインカメラに使用。全編ハンドヘルドの撮影となると映像クオリティが落ちてしまうので、三脚パート、手持ちパートを演出によって使い分けた。

世界中からバイヤーが殺到

SXSWは新人監督の登竜門としても有名で、今回も136作品中、49人が新人監督だ。公式ウェブサイトでノミネートが発表された瞬間、私や汐巻氏のもとに多くのバイヤー、他国のフィルムフェスティバルからオファーのメールが殺到した。この映画の権利を買わせてくれというものだ。売買ノウハウのない新人監督が下手に返信をしてしまうと大きな火傷をおってしまうこともあるという。プロデューサーとバイヤーの戦いの幕がここから始まるのだと感じた。

出発前

チケットと宿

出発前に私たちがしなければいけないことは、いち早く飛行機チケットと宿を探すこと。各ホテルなどはこぞって家賃を上げてくる。私たちはクルー、家族を含め7人で滞在するため、会場に近く、さらに全員が泊まれる宿を「Airbnb」で探した。
映画のポスターは、デザイナーとしても活動している島津氏自身が作成。ポスターデザインのコンペにも出品するため、連日島津氏と汐巻氏のデザインの話合いが出発ぎりぎりまで続いた。期間中必要となるフィルムメーカーパス取得のための事前登録、取材のスケジューリング調整、事前のアンケートの返答など、事前に多くのペーパーワークをこなす必要があった。

SXSW前日

オースティン到着

東京からオースティンへいよいよ出発。直行便ではなかったため、およそ一日かけて現地に到着。レンタカーを借りていよいよ予約していた宿へ。私たちはショートステイ用の一軒家を借りた。家にはハンモックやトランポリン、ピアノやギターなどもあり、時差ぼけとテンションが上がっていたせいか、全員眠りにつくことなくそれぞれに楽しんでいた。

SXSW初日

事前準備

コンベンションセンター.02
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フライヤー貼る02
©Ryusuke Okajima
フィルムメーカーパスをとりにコンベンションセンターへ。ここはいわゆるインフォメーションデスク的なところでトレードショーや各著名人のスピーチなどの会場にもなる。会場内の円柱は、参加者が自分で映画のフライヤーを貼る場所だ。私たちは柱という柱に「旅するダンボール」のフライヤーを貼りまくった。
フィルムバッチをもらう03
©Ryusuke Okajima
バッジを配布する大きな部屋でバッジをもらう。フィルムバッジは水色、ミュージックバッジは緑、インタラクティブバッジはオレンジと色分けされている。街中でもバッジを一目見ただけで、どのカテゴリーの人なのかがわかるようになっている。

大御所たちとの貴重な機会

ロバート・ロドリゲス監督02
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私と汐巻氏は水色バッジを付け、招待されているフィルムメーカーの公式ランチに向かった。会場はロバート・ロドリゲス監督所有のトラブルメーカースタジオだ。街の少し外れに位置する小高い丘を登ると大きなスタジオが見えてきた。ロドリゲス監督のスピーチやSXSWのディレクター陣のスピーチが聞けて、とても貴重な時間を過ごすことができた。
ランチ会場では多くのフィルムメーカーが集まり、お互いの映画の告知や情報交換などをして時間を過ごした。同じテーブルのT・G・ハリントン監督夫妻は、奥様がプロデューサーとのこと。彼はもともとエディターでデヴィッド・フィンチャーやミチェル・ゴンドリーとも仕事をしていたという。世界の大御所達と同じフィルムフェスティバルに参加できているのもチームのおかげと感謝の気持ちでいっぱいだった。

ゲッティで記念撮影

ランチの後、クルーと合流し4人でゲッティ・イメージのフォトスタジオに移動。普段は撮る側なので、モデルとなるとだいぶぎこちない動きをしてしまった。将来私たちが出世した時、新人だった頃から応援をしていた、という意味で撮っているらしい。それを知り「将来大きなプロジェクトをやり遂げなければ!」と心に誓った。写真は3万5千円で買える。この値段に恥じないように精進したいと思う。

SXSW2日目

高まる緊張感

3月だというのに気温は朝から30度まで上がった。昨日までのリラックスムードは一変し、皆、心なしか落ち着かない様子。私と汐巻氏はこの日もフィルムメーカー公式のブランチに参加した。今日からスクリーニングというグループや、すでに1回目のスクリーニングを終えた人たちもいた。みな同じ土俵に立っているせいか、ワクワクと緊張とが入り混ざっており、就職活動の面談前の感じの様だった。食事を終えてスクリーニングに向かおうとすると、みんなから「Good Luck」と声を掛けてもらい、いよいよ始まるのだと一気に緊張感が高まった。

スクリーニング初日

上映会場
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私たちの映画は期間中、3回上映する。初日の上映場所は、街から少し外れたALAMO LAMARという映画館だった。会場にはすでに多くのお客さんが列を作り、自分の見たい映画の順番を待っていた。いよいよ上映開始。私たちの映画は、数週間前からSXSWの公式ウェブサイトで「Filmmaker In Focus」(注目のドキュメンタリー映画)として取り上げてもらっている。その効果もあったせいか多くのお客さんに来てもらった。私は劇場の一番後ろに座りお客さんの反応をみながら鑑賞した。みんな笑って泣いて感情むき出しにみてもらえたこと、今でも鮮明に覚えている。

SXSW中盤

取材対応

取材03
©Ryusuke Okajima
私たちと同じ「ドキュメンタリースポットライト」部門の作品「THE DAWN WALL」の鑑賞後、私たちは隣接しているインターコンチネンタルホテルの取材部屋に移動してインタビューを受けた。この日は取材ラッシュ。私たちのパブリシティを担当してくれているシルビアさんは、過去にソフィア・コッポラやミシェル・ゴンドリーなどのPRを担当した経験の持ち主で、とても心強かった。
取材は1媒体につき大体15分から20分。プロデューサーのメールには連日、多くの取材依頼やバイヤーとのミーティングの依頼が入った。2回目のスクリーニングが終わったあたりから事前の予定を越える取材が入るようになった。前評判と、実際に見た人の口コミ効果が相まって取材が増えたのだと思う。
フィルムフェスティバルの終盤に開催する授賞式の直前、フィルムメーカーのみが出席できる前座パーティーが開かれた。コメディアンが司会を務めたこともあり、会場は終始笑いの渦だった。受賞者はとても興奮していて、トロフィーの重さを感じさせられた。
シルビアさん右から2番目
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SXSW終盤

VRの将来性に関心

出品者として参加していることもあり、見たい映画がほとんど見られなかったが、イーサン・ホーク氏のカンファレンスやテレンス・マリック監督がVRで描いた「TOGETHER」を体験したりと、少ない時間の中で、今後の映画人生につながると思われる貴重な体験ができた。私たちが今後、どのようにVRを活用できるのか、その将来性に興味が湧いた。

大劇場でもほぼ満席に

Q&A
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この日は3回目のスクリーニング。最後の上映の会場は、街のど真ん中にある大きな劇場の「ALAMO RITZ」だ。今回もまた大勢のお客さんに来ていただき、席のほとんどを埋めることができた。前回にも増してお客さんの反応がよく、映画が終わった時に「オースティンに来てくれてありがとう」という言葉を頂いた。初めてづくしのSXSWで刺激をたくさんもらい、私の映像人生の中で大きな節目となったことには間違いない。
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