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芳賀 弘之のハリウッド撮監的アプローチ

- #2 Steadicam Voltと、その先の可能性 -

芳賀弘之 / 撮影監督

UP

「ステディカムの操作はもう難しいものではなくなるかもしれない」と聞いて、驚かれる方もいるだろう。Gimbalの優位性の1つに操作の簡単さを謳い広まった経緯がある。一方、ステディカムは何度も訓練・実践を繰り返し初めて、プロと呼べるようになるという、より職人の世界である事は間違いない。昨年Tiffen(STEADICAMの会社)が発表した「Volt」という画期的なテクノロジーはステディカムの門戸をより多くの人へ開く事に寄与するだろう。

Steadicam M-1 Volt登場

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スマートフォンでの動画撮影に見識のある方は、小型のハンドヘルドタイプの「Steadicam Volt」を聞いた方もいるだろう。DJIのOsmo Mobile等、昨今多くのメーカーがスマホ向けのスタビライザーを世に出している。片手で行える簡単な操作で実にスムーズな動きを実現している。世界的にも有名なSteadicamブランドを持つTiffen社が、2017年に発表した「Steadicam M-1 Volt」は、搭載されたGyroモーター駆動は2軸ジンバルでの正確な機械的な手振れ補正により、より滑らかなショットを実現してくれるだけでなく、他のスタビライザーはどうしてもカメラを正面以外にパンをした場合遅延(ラグ)があるのだが、これはカメラを向けたい位置に素早く補正し、ハイ&ローアングルでも素早くカメラアングルを固定してくれるので、オペレーターのフレーミング作りに大いに貢献してくれる。これはステディカムの発明者でもある、Garret BROWN氏こだわりだ。Steadicam M-1 Voltの発表は一年前のCineGearExpo2017。今回その技術を現行機種のステディカムにも装着できるようになり、さらに間口が広がった。

ロール方向の傾きを制御補助

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ステディカムを操作する上で、最もシビアに留意する点は「水平」である。どんなに素晴らしい一連の長いワンショットでも、水平が取れていないとリサイズしたり、下手すれば使えない事もある。Voltは、そのステディカムの最重要な機能である、ロール方向の傾きを制御する部分を容易に補ってくれるのである。Voltの重量は2パウンド(0.9kg)で、ステディカムの最上位モデルの”M-1”用を既に販売、取り付け部のYoke(ヨーク)を付け替えれば、別モデルの”Shadow”, “Archer”に取り付け可能は勿論、他社ブランドの”GPI PRO”にも対応するのは、TiffenのVoltにかける自信の表れではなかろうか。この新しいVoltは、スイッチ一つで制御のON/OFFをコントロール。もちろん従来通りの使い方もできる。制御の強さも選べるので、今まで通りのオペレートも可能であると共に、風が強い環境下では水平を保つのに助力してくれる力強い味方である。しかも静音設計で音収録下でも使用可能。これまでは、ステディカムを強風の中オペレートする場合は、重量のあるGyroを付けていたのだが、それだとモーター音が大きく音声収録に障害があったのでかなりの進化である。また、スマホ用モデルからの応用で、アングルを上下傾斜をつけて固定もできるので正に好きなアングルを保ったままスムーズなオペレートを可能とする。
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Steadicam M-1 Voltは、軽量化や静音化によって今迄のGyroとは明らかに差別化され、使い易さが向上しただけでなく、オペレーターの個人差やステディカムに載せるカメラや機材等の個体差も許容化する素晴らしい技術・道具である。今までのステディカムではある程度のオペレーターによる力業やセンスが大きな差を生んでいたが、Voltはその大部分を補ってくれるので、これからのステディカムはもっと画作りの部分に時間を割く・集中する事が出来るようになるのは言うまでもない。

ショットとアート性の追求

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左からRon Ayers(ロン・アイヤーズ)氏、Robert Orf(ロバート・オラフ)氏

この度、バーバンクにあるTiffen社に伺う機会があり、開発者の方は「これからはショットのアート性の追求と、ステディカムの基本を入念に学び毎度確認する事が大事だ」と幾度と告げていた。「基本を入念に学び毎度確認する」と強調された所に、オペレーターの要所を再確認させられた。その方が付け加えて「最近はアマチュアからプロまで多くの方がステディカムを所有してくれるのは有難いが、偶に微妙なオペレートを目にする。その原因を探っていくと、バランスのとり方やセットアップの仕方等、基本が出来ていなかったりする」と言われていた。やはり基本を押さえるというのはステディカムに於いても重要なのだと思い知らされた。
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撮影監督の私としては、「ショットのアート性の追求」というのが耳に残った。今迄のステディカムは「水平」を取るのに時間を費やし、限られた時間や制約の中で妥協するショットもあったのだが、Voltの出現によって、これからはそこを心配せずもっと純粋にショットと向き合えるというのは大変有難い事である。映画はStory Tellingとも言われるが、Composition(構図)やCamera Work(カメラの動き)を突き詰めて、いかにして映像で伝えたい事を表現するかが映像作りに於いて大事であり核の部分だと思う。開発者の方が言う様に、先ずは基本やステディカムの構造を理解し、環境下での難しい調整はVoltという新テクノロジーがヘルプし、次の段階(Story Telling)に集中する事がこれからももっと容易になる。それは「シーンや伝えたいメッセージから、ここでのベストなショットとは何か?」を監督とステディカムオペレーターときちんと協議するという、映像作りの楽しい部分にもっと触れられるという事だ。Voltの誕生によって、撮影監督である私は映像作りの原点を回帰させられた。

Seadicam M-1 Volt
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銀一(取材協力)
公式サイトはこちら