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芳賀 弘之のハリウッド撮監的アプローチ

- #1 Gimbalとステディカム 使い分けの極意 -

芳賀弘之 / 撮影監督

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“STABILIZED SHOT” と聞いて先ず思い描く手法は何であろうか。レンズ自体にOIS(Optical Image Stabilizer、通称:光学式手ぶれ補正)機能が備わっていたり、小さなDSLR内部にも「光学式5軸ボディ内手ぶれ補正」がついていたりと、かなり身近に安価で”STABILIZED SHOT“を手に入れられる様になった。またポストプロダクションでは、After Effect/Premiere Proのワープスタビライザーで有名になり、最近ではAvidやVegas Pro等の編集ツールは勿論の事、DaVinciまでも優秀なスタビライザーが備え付いている。2011年に公開された、デヴィッド・フィンチャーの「ドラゴン・タトゥーの女」では、当時REDがMysterium-Xセンサーを発表したばかりで、Red Epicにて4.5K/5Kの解像度の中手持ちで撮影したのだが、それはポストでスタビライザーを使う前提で、余白を加味した撮影をしたのである。これを当時American Cinematographerという雑誌で確認した時には驚いた。今では高解像度の利点の1個としてこのスタビライザーの役割は大きいと思う。しかし撮影監督としての私が”STABILIZED SHOT”と聞いて先ず思い浮かぶのは、やはりGimbalかステディカムである。ワンショット撮影にこだわりのある監督と仕事をする時、Gimbal・ステディカムはよく話にあがる。Gimbalの代名詞とも言えるMovi M10が誕生したのが2013年、「革命的な新しい技術。新たな撮影方法を生み出す。」と謳われ、ステディカムが置き換わるとまで言われていた。ステディカムの歴史は古い。1976年に誕生、同年に公開された「ロッキー」のフィラデルフィア美術館の階段を駆け上がるシーンで一躍脚光を浴びた。そんな長年培ってきたステディカムは、果たしてGimbalに置き換えられているのだろうか、それぞれの特徴や注意点に着目し紐解いていきたいと思う。

ハードウェア制御とソフトウェア制御の違い

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時折PV・CM撮影の時に、「ここは時間がないので、MOVIで全部いっちゃいましょ!」と耳にする事がある。私はこの時間の制約に対してGimbalに頼り切りなのは疑問を覚える。Gimbalが登場し、近年多くの個人での所有者も増えた。レンタル代においてステディカムはオペレーター付きで雇うので叶わない。Gimbalとステディカムの大きな違いはシステムである。Gimbalはソフトウェアで制御しているのに対して、ステディカムは重量のバランスとそれを支えるアームでのハードウェアでの制御である。アナログ vs デジタルにも似た、Gimbalのソフトウェアによる問題はコンピュータのバグにも似て、「何故か正常に作動しない」という原因不明の事態に陥る事がある。その不安を払拭するにはその事をきちんと理解したプロの技術が必要になる。もちろんその分値段が嵩むので、一概にも安いとは限らない。一方、ステディカムはもっとマニュアルなので問題が分かり易いし対処し易い。この何か問題が起こった時の復活の速さが圧倒的に違う=より多くのショットを撮れるということに、あまり着目されていないのではないか?この違いを分からず取り合えずGimbalを投入し、ショットを見てやはり違うと思い結局手持ちに切り替えた経験が何度かあった。

重量制限による利用範囲

他には、重量・大きさの制約がもう1つの大きな違いであろう。Gimbalはケージに収まらないといけないというカメラの物理的な大きさの制限もさることながら、搭載可能カメラ重量もある。Movi Proで6.80kg、Ronin 2では13.6kgとなっている。Ronin 2でAlexa XTが載ってのを見たことがあるが、基本的にシンプルなセットアップしかできない。一方ステディカムは、大きさの制限はあるがその範囲は広い。例えばマーティン・スコセッシ『ヒューゴの不思議な発明』では、ARRI ALEXAが2台ついた3Dリグがステディカムに載っていた。(約35~37kgとの噂)この様に、ステディカムの方がカメラの重量・大きさ然り、カメラにつくアクセサリの制限に対しても自由度が高い。

動きの違いで使い分ける

Gimbalとステディカムの動きについてはどうであろうか?被写体を真っ直ぐ追う・手前に引っ張るといった直線的な動きのショットにおいて、Gimbalとステディカムはほぼ同じ役割を果たす。多くの”Stabilized Shot”はこの動きが多いので混同されがちである。予算の関係で、Gimbalの方が安く借りられる場合が多いので、カメラオペレーターが経験豊富な場合、Gimbalを用いた方がいい場合もあるのは事実だ。私が「真っ直ぐ」と強調したのは、Gimbalの場合、被写体の周りを360度周ったり 、低い位置からの「あおり」ショットや高い位置からの「俯瞰」ショットには弱い。MOVI ControllerやMimicを用いて、Gimbalのオペレーターと別に、カメラの向いている方向を撮影監督がオペレートしてこの問題を解消するのは可能ではあるが、ワイヤレスでの遠隔操作なので誤作動も起こりうるし、ステディカムを生業にしているプロの的確な動きや微妙なタイミングを用いる複雑なショットを履行するにはGimbalはまだ追いついていない。
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一方で勿論Gimbalの良い所はある。Low Modeの手軽さが先ずあがるであろう。ステディカムだとStandard Mode(通常のモードで、撮影対象の「アイ・レベル(目高)」のショットに多用される)からLow Modeへの切り替えは、どんなに速い人でも10分程かかる。Gimbalだとオペレーターが持つ位置を変えて、簡単に高さの調整を出来るのでセットアップの切り替えは必要ではない。他にも、特殊な撮影にもGimbalは強い。例えば、Moviが初めて出た時のデモ映像で話題になった、オペレーターがローラースケートを履いては走っている被写体を追っかけて、タクシーに乗り込む一連の動作と、乗り込んだ後もタクシーに捕まり中の被写体をワンショットで撮り続けるショットがある。私も一度撮影したが、狭いロケーションな中、ワイヤーアクションで2階から1階に垂直にカメラを下すショットで、ロープを使って上手くスムーズなショットにするのに、Gimbalは大活躍した。こういった特殊なトラッキングショットはGimbalなしでは不可能である。(広い場所では、テクノ・クレーンが使われる事があるが予算がその分かかる。)また最近では、クレーンの先につけ、Controllerを駆使してRemote Headの代用をしたり、スポーツ中継でも幾度と目にするようになった、ワイヤーを張った2点を素早く移動する「スパイダーカム」にもGimbalは利用され、揺れの少ない安定したショットとWirelessでコントロールしている。そしてもちろんドローンにも利用されている技術でもある。Gimbalの別の利点は、オペレーターの必要スペースの小ささだろう。狭い螺旋階段等、複雑な足場や限られたスペースでは、ステディカムは登用不可能である。
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ショットの印象の違い

最後に、Gimbalとステディカムの与えるショットの印象の違いについても述べておきたい。「ゆっくり人物を追う」というショットには、どちらも登用可能だと思うが、果たして全く同じショットが得られるのだろうか。私の主観かもしれないが、Gimbalはどこか浮遊感が強く、少しでも左右や縦の振りがある場合「ヌルっと動く」感じがして時折余計に感じる。まだステディカムの方がこの機械的な動きの印象が少ない。カメラワークにおいて、一番大事なのはあくまで観客の視点を代弁する事で、余計なカメラワークはかえって変な意味を持たせてしまうし、集中力を削ぐ。敢えてやる演出もあると思うが、この点でGimbalはステディカムに劣る様に思える。また時折、僅かにだがかなりゆっくり「Push In(対象物に寄っていく)」したり「Pull Back(対象物から遠ざかる)」という心象表現を強調するショットがある。前後のショットとの関係で、Gimbalやステディカムをそのままそのショットに適応するが、こういったショットはドリーかスライダーが一番生きる。正確に安定して何度も反復出来るし、値段も抑えらえるドリーやスライダーの登用も是非考えてもらいたい。
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最近では、Gimbalをステディカムやドリーに取り付けたり、ハイブリッドなものが生まれ新たなショットの可能性が出てきている。両方の良いとこ取りや、さらなる”Stabilized Shot”を目指して、また新たなテクノロジーが出てくるのかもしれない。これまでの機材の特性をきちんと理解し、新たな機材や技術に目を向け、想像力を働かせてどういったショットが一番伝えたいものを伝えられるかを熟考するのが撮影監督の仕事であると私は常日頃思っている。そこには時間や予算という制限が常にあるが、その中でベストなものをプレゼンして実行する、それは楽しい事ではないだろうか。私はそうやってこれからも新たな技術や可能性を楽しんでいきたい。
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