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進化するデジタルシネマの世界

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Helium8Kで撮影した映像の切り抜き。肌の質感、トーン、その迫力は圧倒的だ

映画制作の世界では急激なパラダイムシフトが進んでいる。そもそも「映画はフィルムで撮影されるもの」という考えが、私の意識の根底にはあった。だから、デジタルによって制作ワークフローが置き換わる際も、当初は「いかにフィルムらしさを残すか」ということをデジタル技術に求めていた。今でも、フィルムの持つ良さは変わらないと思っているが、DCPのデジタルプロジェクションが映画の主流になり、デジタルシネマカメラが飛躍的な進化を続ける中、もはや「フィルムか?デジタルか?」という話をする人も少なくなった。
今回は、このパラダイムシフトを象徴する2機種、8K/60Pという”異次元”の映像撮影を実現した「RED WEAPON 8K S35」と、100万円を切る価格でRAWの内部収録を可能にしたキヤノン「EOS C200」の2製品の撮影テストについて報告する。

RED WEAPON 8K S35

8K/60Pという異次元の世界

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8K画像の切り抜き。カラーコレクションをする前の素材の画像にもかかわらず、ノイズも少なく、その表現力はスチルカメラと何ら変わらない。美しい
RED Digital Cinema社は、デジタルシネマのパイオニアであり、技術的な面で今も先行者として業界をリードしている。同社のHeliumセンサーは8K/60Pの映像をRAW(R3D)で記録でき、しかもポストプロダクションの簡潔で効率的なワークフローは、世界の映画制作の現場で高く評価されている。他の多くのカメラメーカーが、8K映像についてはまだ試行錯誤の段階である中、60Pのフレームレートを先行して実現している点は”異次元”といっていいだろう。REDは動画からの切り抜きでも「写真と同等の品質」を謳っているが、8912×4320の解像度はただただ圧巻としかいいようがない。
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RED Helium8Kの撮影現場 – 撮影規模といい、カメラ筐体といい、すべてがコンパクトだ

シグマのフルフレーム・シネレンズとのコンビ

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シグマのフルフレームシネレンズ。FF High Speed Prime Line。その描写力は8Kにおいても素晴らしい。14㎜~135㎜まで7本のラインアップからなる
8Kを撮影する際にレンズ選びは非常にシビアになってくる。Heliumセンサーに負けないだけの描写力を要求されるからだ。今回は新しく発売になったシグマ社のフルフレーム・シネマレンズをREDに装着してみた。
シグマの最新のシネマレンズ群はコストパフォーマンスも併せてその実力はトップクラスだ。フルフレーム・シネマレンズは、EFマウントでフルフレームのイメージサークルを持ち、フォーカス開角度も180度で使いやすい。かなりシャープな描写を持っており、8K撮影でも素晴らしい表現力を発揮してくれた。今でもデジタルシネマを支えているキヤノンのEFレンズ群や、歴戦のPLマウントシネマレンズたちも、8Kの世界では多少事情が異なる。特に、8K撮影でもカメラ内補正をせずに使うことができる点は大きな違いだ。

パソコンの進化と並走するポスト環境

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Adobe Premiere Proの編集の模様。8K/60Pであってもマシンスペックに合わせて環境を整えられる
ポストプロに目を向けてみよう。 独自ソフトの「REDCINE-X PRO」を使えば最新のディベイヤーで現像できる。 REDのRAW素材は「Adobe Premiere Pro」で簡単に編集できる。 ウェーブレット圧縮のR3Dファイルなら、再生解像度を下げれば8Kの素材であっても「Adobe Premiere Pro」の「Mercury Playback Engine」でマシンスペックに合わせて簡単にネイティブで編集可能だ。「DaVinci Resolve」ならHDR編集も軽快にできる。

8Kの撮影はまだまだ発展途上

しかし8K撮影のフォーカスは驚くほど難しい。4K撮影でさえ、フォーカスの難しさが話題になっているが、8Kの撮影はワークフローの面でもまだ開拓の余地が多く、4Kの延長と考えるわけにはいかないようだ。8Kモニターを現場で出力するのは、現実的にほぼ不可能だし、特にREDの場合、HDモニターで監視するのが現状のシステムとなっている。拡大フォーカスやピーキングなどのフォーカスアシストを使って撮影を進めるが、熟練のカメラマンでも「ジャスピン」を狙うのは至難の業だろう。画質を重視してシネマレンズを使う場合、オートフォーカスが使えないため、指先のワンタッチで変わるファインフォーカスをワンカットずつ丁寧に探らねばならない。8K撮影はまだ始まったばかりといっていいだろう。

EOS C200/C200B

いよいよRAWを内部収録で – EOS C200に集まる期待

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今夏7月に発売になったEOS C200シリーズ。価格といい、性能といい、新しいCinema EOSの時代を切り開くことになるか?

今年7月、キヤノンからCinema EOSシリーズの最新ラインナップ「EOS C200」と「C200B」が発売となった。時代を象徴するカメラともいえ、デジタルシネマの未来を切り開く一台として注目を集めている。
4Kの画質を持った高機能デジタルシネマカメラ。さらに、キヤノン最新のRAW形式で収録が可能であるにもかかわらず、価格は100万円を切る設定になっている。DCI 4Kで30P・12bit、60Pなら10bitの圧縮RAWで記録できるという高いコストパフォーマンスを実現している。AF機能も優れている。Cinema EOSの代名詞ともいえるデュアルピクセルCMOS AFは4K解像度でも自動でフォーカスコントール可能だ。 精度の高い顔認識に加え、ターゲットを設定すればあらゆる被写体を追尾できる。マニュアルフォーカス時におけるフォーカスガイドもEOS C300 MKⅡから更なる進化を遂げている。
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オートフォーカスを使えば、ハンドヘルドでも確実なフォーカシングを行える

最新RAWフォーマット Cinema RAW Light

Cinema RAW Lightといわれる最新のRAWフォーマットは、「DaVinci Resolve」か、キヤノン独自のソフトウエア「Camera RAW Development」でディベイヤー可能だ。ただ、 DaVinci Resolveで扱うには撮影時のパラメータが多いため、事前の処理が必要となる。現状(2017年8月)では、「Camera RAW Development」で一度DPXに書き出してから、好みのソフトウエアで色編集などを進めるのが一番素材の良さを活かして編集を進められるワークフローだといえる。 まだ新しいRAWフォーマットであるため、今後多くの編集ソフトウエアでの対応が続くと思われる。

従来の1/3~1/5のデータ量でRAW収録が可能に

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C200の撮影現場。EFレンズの運用はとても簡単で、ワンマンオペレーションでも余裕だ
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Camera RAW Developmentの様子。使い勝手は簡単でDPXの書き出しも早い
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作品からの切り抜き。Cinema EOSならではの美しさだ。RAWでの収録なのでポストで編集の幅は広くとることができる

Cinema RAW Lightは、従来のRAW素材と比べて1/3~1/5のデータ量のため、CFast 2.0の汎用メディアで記録できる。ビットレートは約1Gpbsと、RAWとしては非常に扱いやすいサイズといえるだろう。これでキヤノン独特のシネマルックがいよいよ「カメラ内部収録」のRAWで撮影ができるようになった。これまで、Cinema EOSシリーズでのRAW収録は、他社製の高価な外部収録システムが必要だったが、これでようやくCanon Logを使った撮影や、HDRによるワークフローがわかりやすく描けるようになる。
今回の編集では「Camera RAW Development」により、REC.709のカラースペースのWide DRガンマで10bitDPXに書き出し、「Adobe After Effects」を用いて、中間ファイルのカラーコレクション、編集を施している。一貫したRGBのワークフローを整えることで、撮影素材のクオリティを保ちつつ、C200の捉える美しい映像を形にできた。

スピーディな4K映像制作ならMP4が最適

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Adobe After Effectsでの編集画面。10bitRGBでの作業は安心である。暗部の階調が思いのほか豊富にとることができたと実感している
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MP4の切り抜き。決して侮れない美しさを保持している。汎用性といい、操作性といい、重宝するひとも多いはずだ

EOS C200はMP4における4K収録(UHD)も可能だ。SDカードによる収録で、よりスピーディに4Kデジタルシネマが制作できる。旧来のMP4のイメージからすると、画質が気になる人も多いかもしれない。しかし、実際に撮影してみると効率的・汎用的であると同時に、しっかりとした4K画質による収録ができ、ちょっと驚いた。グレーディングは、RAWと比べて大きく差を感じることになるが、撮って出しや、ドキュメンタリー撮影などには最適なワークフローではないだろうか。
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編集のBeforeとAfter

デジタルシネマの技術は驚くようなスピードで進化している。周辺機材であるドローンやジンバルの発展とあいまって、撮影手法は大きく変わりつつある。ビデオからデジタルシネマへと、新しい映像表現の舞台がいよいよ整ってきた。